勇者パーティー追放からの故郷壊滅。回復術師は魔王軍幹部の吸血鬼と契約して得た禁術・リミッター解除で復讐してやる。「戻ってきたら許してやる」なんて口をよく叩けるね?

小鳥遊なごむ

第1話 追放と故郷壊滅、そして吸血鬼

もうお前みたいなヒーラーなんて俺たちのパーティーには必要ない。そう言われた。

田舎者は村にでも帰れ。そう言われた。


あの日、女神エリア様のお告げで僕は15歳で勇者パーティーの仲間になった。

そして2年、苦難を乗り越えて支え合ってきたと思っていた。


だから、お荷物だと蔑まれて追い出されるなんて思ってもみなかった。


唯一、勇者パーティーにして王女で結界の聖女、アスミナ様だけは悲しそうな顔をしていた。


その瞳には僕がどんな風に写ったのだろう。

僕に対する失望か。


故郷の村ではお告げを授かって僕は期待の星だった。

それが今はどうだろうか。


王都では蔑まれてとても生活が出来なくなり、結局僕は村に帰る事にした。


もう村では僕が勇者パーティーを追放された事が知れ渡っているだろうか。

考えるだけで居心地が悪かった。

いっそどこかで野垂れ死んでしまおうか。


これ以上の生き恥を晒すのはあまりにも辛い。


それでも、僕は故郷の村へ帰った。


だけど……


「……どう、し、て……」


暗くなった空の下、真っ赤に輝く故郷。

炎は踊り、人型のなにかは苦しみの末に横たわっていた。


「……ミスティ」


幼なじみのミスティは服を着ていなかった。

身体のあちこちがアザだらけで腕も脚も切断されていた。

虚ろな目をして、死んでいた。

陵辱の限りを尽くされて絶望しながら死んでいたのだ。


「……これは夢か。きっとそうだ。じゃなきゃ、こんなはずが」


吐きそうだ。

頬から涙が伝っていく。


家に走った。

家は無かった。

魔法の総攻撃でもあったのか家の骨組みの名残もなく、残骸ばかりが転がっている。

父さんと母さんらしき焼かれた身体があった。


「……なんで……なんでなんでなんでなんでなんで……」


どうしてこうなった。


僕が無能だから?用無しだから?田舎くさいから?


「……まだ、生きてる人がいるかも、しれない……助けなきゃ……」


せめて誰か、誰か1人でも救わせてくれ。


「……人を癒して助けるはずの僕が、動かなくてどうする……?」


『そんな使命感なんてもうどうでもいい。みんな死んだんだ。こんな状況で生きてる人なんていないよ。国王軍の兵士の死体も何体かあるじゃないか?見せしめに殺しにきて、村人が一矢報いてもこのザマなんだ』


「うるさい」


『見たらわかるだろ?100人もいない村の蹂躙なんて簡単じゃないか。ほら、あちこちに死体が転がってるじゃないか。石ころみたいに』


「うるさいっ!」


『焼かれて、犯されて、引きちぎられて、あんなに弄ばれてるじゃないか』


「誰か!いないか!誰か!返事をしてくれ!」


僕の叫びに誰も返してくれない。

どこを走って探しても誰もいない。


「誰かいないのか?!」


膝を付いて血の滲んだ地面を何度も殴りつける。

どうしてこんなことに……


「おい、人間」

「ッ!……」


振り返ると見知らぬ少女がいた。

病的なまでに白いとわかる肌。

死んだ瞳すら美しい紅い眼。

腰まで伸びたツヤのある紫色の髪。

見た目は13歳くらいの少女は黒いワンピースを纏って、僕の後ろにいたのだ。


「……」


なんなんだ、こいつは?

村にこんな子はいなかった。


「お前は勇者パーティーの回復術師のクロムじゃろう?」

「……そうだ。お前は、誰だ?」


聞いてはいけない気がした。

聞けば死ぬ気がしたから。

でも、もうどうでもよかった。

大切なものはもう、全て灰になった。


「妾は魔王軍幹部、吸血鬼のヴィナト。どうじゃクロムよ、妾の仲間にならぬか?」


ヴィナトという吸血鬼の瞳の向こうに終わりのない死が見えた。

それがなんとも美しくて、僕はその日、人間をやめた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る