3話 気の赴くままに

 講義終了後、俺は課題の手抜きの件で講師に絞られていた。


「流石にこれはひどいから受け取れないよ覡さん」

 そう言って講師は前日提出した課題を俺に返してきた。

『同じ内容で出した女は咎められず何故俺だけ咎められるんだ』という言葉が喉まで出かかったが何とか飲み込み、一応申し訳なさそうな顔をしながらその課題を受け取った。


「やればできるんだから」「期待している」といったありがたいお言葉を頂いたが、心底鬱陶しいので顔にそれらしい表情を貼り付けて耳から耳に流して帰路に着く。


 一年次までは、やれ資格だのやれボランティアだのと我ながらよく頑張っていたと思うが、まさかそれが仇となり、人並みよりちょっと、ほんの少し多めに手を抜いて過ごし始めただけで周りからやいやい言わるとは、やはり努力とは忌むべきものだったか。


 ムカつくのでコンビニで適当に酒とおやつを買ってやけ飲み食いする

 決して真面目な勤労青年では無いのでお金が潤沢にある訳では無い。それなのにこういうことばかりしているので、月末には財布が寂しいことになるのだ。

 まぁ今が良ければそれがいいのでこういった衝動買いは治すつもりはないが。


 暗くなった公園でホットスナックを齧っていると、向井がげんなりした表情で近寄ってきた。コイツの手にもしっかり酒とオヤツがあった。


「聞いてくれ覡、合コンを断るのについに失敗しちまった……嫌だー行きたくねぇ。もう何度も断ってんだから諦めろよまじで」


 向井は高校時代に女関係で拗れて家族との絶縁にまで至った哀れな男だ。故に女という存在がダメになってしまっている。しかし、顔も性格も良いのでよくモテる、てかモテすぎたが故に拗れて問題が起きたのだが。

 それだと言うのにこの男は明確な拒絶もせず、男女関係なく普通に接するので、こいつの周りには男も女もよく集まる。

 正しく自分の首を自分で絞めているのだ。


「ついに捕まったか、哀れだな向井クン。しかしよく一年も逃げ続けれたな、お前ほど人に好かれる奴ならもっと早く捕まると思ってたが。」


「好きな人がいるのでそういうのはちょっと……って言い続けてたんだが、一年間全くそれっぽい動きをしなかったからその言い訳が力を失ってしまったんだよなぁ」


 その程度の言い訳で一年逃げ続けたんかこの男。


「その八方美人やめて女性に対して明確に拒絶を示せば楽に生きれるというのに難儀な奴だ」


「他人に嫌われるほど嫌なことは俺にはない、と言いたいが最近は同じくらい女がダメになってる」


 そういうと向井は酒をあおり、そして気色悪く擦り寄ってきた。


「して相談があるんだが覡、お前も来ないか?合コン。いや、来てくれ、俺の盾になってくれ。お前の分の金は出す、頼むこのとーりだ!」


 そう言って頭を下げる向井の手はこちらに向けられ、金が握られていた。


「一万……本気だな、向井。いいだろう、お前を助けてやる」


「やっぱりお前は最高だ、かんなぎぃ!」


 そう叫んだ向井は俺の背中をバシバシ叩いて酒をあおった。


「そうだろうそうだろう!まぁこっちとしては飯も食えて金も貰えるんだから悪いことはないからウィン・ウィンの関係って奴だ!」


 なんかさっきまで嫌な気分だった気がしたが、今は気分がいい!


 勢いのままに居酒屋に入り適当に二人で適当に飲み散らかした。


 翌朝、床の硬さで目を覚ますと、横には倒れて寝ている向井がいた。

 昨日の夜何をしたかの記憶は途中までしか無く、頭痛は酷く、気分は悪く、そして財布の中身が寂しくなっていた。

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