8
1Fのホテルからしか入り口がないので入ると、受付嬢がいるので聞くとエレベーターで地下に降りてくださいということだった。
地下に入るとすぐにカウンターがあったのですぐに保険証と書類をだして、LINEのやりとりをすると、せいちゃんは今から準備してでてくる、という。
5分ほどでMRIの方に行って着替えるように言われた。
着替えの部屋の鍵を渡されたので部屋に入って内側から鍵をかけるとさっさとピアスは自分で外した。LINEに「いつものとこで待ってる!多分丁度いいから」と返事をしてロッカーに荷物を放り込む。
例によって服をバーっと脱いでロッカーにつっこみ(それでも帰りに着やすいように多少考えながらつっこんではいる)(だって例えばコートを一番上に置いたらめんどくさいからね)検査衣に着替える。私がこういうとき頭にいろいろ浮かんでは消えていくのはADHDだかららしい。
最後にもう一度スマホを見て、服を投げ捨てる。
医師から説明を受ける。「やったことありますか」「確か」
多分以前もMRIは検診で受けている、と思う。があまり記憶がなかった。
「15分くらいかかります、その間機械の音がうるさいのでこれ、つけてて下さい」黒いヘッドフォンを渡される。それにしても15分かかるのか。その間LINEできないことを自分は不安がった。
私は何がかかるんだろう、イヤな予感がしながらも素直にヘッドフォンをつけて横たわる。「途中息を止める、と指示がでますので従って下さい」
暗い空間に頭が移動する。ウィンウィンという渦の中にいるような音にヘッドフォンから久石譲のアレンジのジブリの曲集がかかっていた。「うわっ」私は癒やしの音やこういうピアノアレンジが一番嫌いなのだ。ジブリも特にわざわざみることはなく、テレビで何度もやっているラピュタやナウシカも一回もみたことはないというとびっくりされることは多い。
あまのじゃくかもしれないが昔「Feel」とかいうアルバムが売れたことがあった。癒やしの音楽や自然の音は人気があるらしいけど、自分にとってはどれもイライラする音でしかなかった。
曲自体もジブリも久石譲単体も悪くないので失礼だが、どれだけマイノリティーなんだ……と思いながらどっちかというと装置の音や装置から得る感覚の方に集中したかった(MRIを畫くときがあるかもしれない、資料だ)
機械の音声で「息を止めて下さい」と指示が出る
こないだのCTよりは人間的でやさしい声だった。
息を止める。
「ゆっくり呼吸して下さい」
ふーっと息をはく。
何分経ったのだろう?
自分は普段も時間を把握していないのが嫌いなので、残り時間でもどこかに表示してれればいいのに、と思った
何度か「息を止めて下さい」「体を動かさないで下さい」(動いたつもりはない)などの指示があり、飽きてきて目が動く範囲まで目を動かした。大したものは見えず、目を閉じた。脈の数を数えたりする。
自分はこういう「何もしてないとき」が嫌いなのだ(MRIを撮られているのだが)
たった15分なのに。イライラする。
けどイライラしてもしょうがないのでなるべく利益になることを探す。
(いいや、せいちゃんと会えるきっかけになったんだからなんでも……早く終わってくれ……)
目を閉じるとまぶたの裏に出てくる万華鏡のようなパターンを見る。
「終了します」
機械が元の位置に戻った。
医師から「着替えて受付まで行ってください」というのでロッカーの鍵をとって部屋から出る。
更衣室に入ろうとすると中年女性がドアに手を伸ばしていた
自分も手を伸ばしたが明らかに中年女性の方が早い。
「あっ……」
中年女性が振り返る。この人も着替えは長いんだろうか?
「すいません、ちょっと私のスマホだけ取っていいですか?」と聞くと、返事を待つ前にロッカーまで行ってスマホをもぎとって「すいません」とドアから出る。
LINEに新着が来ていた3分前だ。
「あと25分くらいでつく」
スマホに「検査は終わったからちょうどいいと思う( ´◡` )」と打ち込む。
…とやってるうちに、数分も経っていないだろうが、医師が通りかかり、私が検査衣を来ているのを見てドアを開く。
「あいてるよ」
「あっ?ありがとうございます」
中年女性も待っている人がいるってわかってるんだから声くらいかけてくれればいいのに。イラつきながら超速で着替える。
猶予は18分くらいか。
鍵を戻し、受付で時間をとられないといいなと思って、椅子に座ってウォーターサーバーから水を飲んでいると、飲み終えるくらいに名前を呼ばれた。
「病院の方へデータ送りますので、来週の…月曜日移行だったら大丈夫です」
「分かりました」
「お会計 6320円になります」
(高い……)
支払いをすませ、外に出る。
(あと15分か…)
「北口の喫煙所のあたりで」
「ちょうどよくつくと思う」
LINEのやりとりをする。
すぐ近く(だが、駅からは離れる)郵便局があって、どうしても送らなければならない書類があったので、番号用紙をもぎりとって列に並ぶ。こういうときに限って、列が長い。待ち人数は4と表示されている。
ここで5分ほど時間を取られたが、北口までは6,7分程度の場所であった。
ちょっと急ぎ足で北口へ向かう。
天然の方向音痴で北口に近づいてはいるが到着できない。
思わず道に立っている風俗の客寄せのお姉さんに道を聞いてしまう。
「えー、私も地元じゃないからわかんないけど、あっちに行くと交番あるよ」と教えてくれた。私はお礼と仕事じゃましてすいませんといいながらGoogleマップで確認するとあと2分の位置にいる。
あ、交番まで行けば遠回りになる気もするが絶対に見たことのある場所に出るはずだ。
そこで「北口ついたよー」とのLINE連絡が入る。「私もすぐ着くから待ってて」
「ちょっと一本吸ってくる」とすぐに返事が来る。
私は焦って道を走った。
もうスマホをみないであたりを見回した。ずいぶん回り道をしていたことに気付く。
小走りになったところで「先に飲み屋移動しちゃうよ」とLINEが来る。
「待って!もう付く!」下手なフリック入力。
猛ダッシュ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます