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起きるとお腹が痛かったが、腸炎だと思うと少し安心できた。昨日油断して普通に食べてしまったので、しばらくブスコパンを飲みながら消化のいいものを飲んでいれば治るだろうと思っていたが、どうしても婦人科にいくことが嫌で、つい食に逃げてしまったりして腸炎はなかなか良くならず、それでもまあそこそこ動けるようになったが体力は持っていかれていた。その間もずっとシナリオの作業はしていた。
そしてその間、どうにか予約の日にあやかさんに感謝しながら気分を少しだけ変えることにして病院に行ったのだ。
朝は憂鬱だったが空は綺麗だったその日は前に記した通りである。
そんな事情で今度はMRIだった。
本当にうんざりしていた。
前日の夜、グーグルマップで道を確かめる
何度もメトロポリタンホテルが出てくる
「は?」
半分切れそうになりながら検索する。MRIなんて受けたくないのになにがホテルだくそ。
東口からだと…15分近くもかかる!ため息が出る。
まあ…スマホ見ていけばいいや、早めに出よう。
いつものように薬を飲んでベッドに入る。
次の日早めに池袋に出た私の体は得体のしれない怒りと、なにか熱にうかされたような感じがあった。バスで池袋に出ながら、下半身が2つの意味でキュンキュンする。
MRIをとることにキれつつ、すごくセックスしたいのだ。
最近セックスする相手といえば決まっていた。実は公認のセフレがいる。
LINEで早速連絡する。
セフレ、という言い方もおかしいかもしれない。私達は18才のときからずっと親友をやっている。パソコン通信であった彼は「otGus」というハンドルネームだったので、ガスくんと呼ばれていた。私は「チンアナコ」(1バイト文字6文字までしか使えなかったので、半角カナのハンドルネームの人は少なかった。今考えると若気の至りというかなんて言う名前だ)だったのでアコちゃんとよばれていた。オフ会が好きなガスくんとは度々あったりしていたがそんなに頻度は高くなかった。
一時期DVがひどいのに離れられなくて4年近くも一緒にいた彼氏からようやくケリをつけて実家に逃げ、最初にメールした先(もうパソコン通信よりインターネットが主流になっており、ちなみにパソコン通信のホストは火事になってログも全部燃えた)がなぜかガスくんだった。
「なんでもいいから薬物やりたい」とメールした私にガスくんは「何も知らないやつにはやらせられない」という返事をよこし、私は生真面目に勉強した。
何冊も本を読み、自分がそちらの知識なしに好奇心だけがあったが、法を破ることに関してはあまり抵抗がなく、そして麻薬の世界が私をとりこにするのに時間はかからず、好きなことに関してはすぐに吸収するタイプの人間である私がその辺の人間より断然麻薬の知識を蓄えるのに時間はかからなかった。
そしてMDMAをやった。
それが22,3になってからだ。
MDMAというのは別名エクスタシー。村上龍の小説で有名だ。
当時は幻覚剤に分類されるが、あまり幻覚作用は強くなく、多幸感や人との共感有(当時はどういうことかわからなかった)と五感が冴えるなどの作用があることを知っていた。
共感有とは英語ではエンパーソゲン(共感をもたらす)とも言われて、エンタクトゲン(内面に触れる)とも言われると知ったのは後になってからだ。
何色だったか忘れたけれど、小さなラムネのようなものを渡された。とても可愛かった。思ったより小さくて、手のひらに乗せると本当にお菓子のようだった。
ベッドの上においてあったペットボトルの水でガスくんが先に飲み、私にその水を渡してきたのでなんだか急がなきゃ行けない気がして、蓋をしないまま渡された水で飲み干して、ペットボトルでMDMAを飲み干した。
MDMAの作用は私を本当にガスくんを好きにさせてしまった。
元々パソ通でもニフティーの次に大きいところに、当時はまだテレホーダイもなかったけど、いる時間帯が一緒で(一度に一緒に接続する人数は制限されていたりで最大人数は200人くらいだった)チャットの部屋に入るといることが多かった。メールというものがなくて、同時接続してるときに「電報」と呼ばれる個人的にメッセージがあって(正しくはなんというか今でも知らないが、接続している人のIDの一覧が出るので、コマンドの後にIDをいれて文章を送ることができた)よく個人的な話もした。
彼は企画を立てるのが好きでよくオフ会もやっていた。コミケごとには「ここに集まる」と彼がきめた場所があって、少なくとも年に2回は会っていた。
他にも人数の少ないオフ会やら、うちの場所は知っていたし、そのころ私と同居していた人がそのBBSで有名人だったので、近所にいるから遊ばない?っていわれたこともある。中卒で仕事でライターやっていたこともあって知り合いが多かった。どこでも年は一番若い層だった。ガスくんは私と学年は一緒だけど早生まれなので1歳年下だ。話があったし、仲良くなった。彼の集まりはたいてい居心地がよくてその後Mixiでも企画をたてて、たまに合い続けていたし、彼を好ましくは思っていた。
……しかし、今は思う。
いまでも効いているのだろうか?と。あのときやったのが他の薬だったら、私たちの関係は、こうは続いていなかったかもしれない。
最初にそういう関係になって割りとすぐ「3ヶ月行ってきます」といった奄美大島から7年帰ってこなかったり、気づけばベトナムにいたり、ほとんど合わない状態が続いた。その間何回あったか、ガスくんとして何回かはあった(酉の市が好きで、何回か行ったはずだ)ことはおぼえている。だけどそもそもセックスするときは「りえちゃん」「せいちゃん」になることをいつからはじめたのかも定かではない。
とりあえず移動中にLINEの返事が来た。
「家にいるけど誕生日だからおごってくれるならいく」
「じゃあ池袋に来てくれ」
ガスくんは埼玉方面に住んでいて、だいたい池袋で仕事してるか飲んでいる。
だからこそ最近はあうことが増えたのだ。
私と言えば病院がわからなくて迷っていた。
くるくると同じ場所を回る。電信柱に小さく病院の地図がでている。スマホを見ると…ん?メトロポリタンホテル?
ここはメトロポリタンホテルじゃないか?って、地下?地下に病院があるのか!
昨日ホテルが出たのは間違いではなかったのだが、病院が地下にあることはかなりわかりにくかった。病院にもらった地図だったら書いてあったのだろう。スマホに頼る現代人のよくある失敗だ。
まあ時間には間に合った。
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