次の日、14時には準備をはじめ、20分すぎに家をでた。家からひたすらまっすぐ、板橋方面に17分歩くだけなのですぐわかった。こんなに近くに大きな病院があるとは知らなかった。


看板がある建物に入るとそこは病院ではなかった。カフェやロビーがある。

建物まちがったかな、アレ?と思ったが、受付があり、小さな体格の女性が座っている。

「あの、CT撮りに来たんですけど…」

「それならばすぐそこに見えるエレベーターで地下におりて下さい。おりたらすぐにおわかりになると思います」

彼女の言うことにしたがい、エレベーターで地下に行く。


なるほど、広々とした待合室がある。

受付に紹介状と保険証を渡す。

「昨日の巣鴨西内科さんの紹介ですね、今日はCTスキャンを取るだけになります」

少しアニメ声、というのだろうか、かわいく甘い、しかしハキハキした対応の受付嬢はいいながら保険証をコピーしている。

「すぐお返ししますので少し待っていて下さい」

「はい」

保険証が手元に帰ってきたので私はそれを財布にしまう。

「なにか金属製のもの身につけてないですよね」


腹部のCTスキャンなので関係ないとは思ったものの、私は耳に大きな「ピアス」というよりは「1cmの穴」をあけていて(最初はごく普通のピアスだったが、どんどん拡張していって今の大きさになった。1cmは00gといってここでいうg注射針などの太さと共通の規格である。普通の採血に使うような注射針は27gとか25gくらい、ファッションピアスが18g程度。そして一番大きいのが00g=1cmである。これ以上の大きさのピアスは特注になっていく)金属のピアスを入れている。

これは耳についているからといって「ファッションピアス」とは違い、「ボディピアス」の類だ。

「ピアス、(と自分の耳を見せながら)だめですかねぇ?」と聞くと「大丈夫だと思いますけど一応先生に聞いていきますね」との返事だった。


紹介状があるためか、ここでも書類を書かされたものの、CTスキャンの同意書のようなもので、速筆である私はさっさと書き終えて提出する。

少し待っているとさきほどのかわいらしい声の女性が私のところにきてしゃがみ込み「ピアス、すぐはずれるものであったら一応安全のために外したほうがいいとのことです」と言ってきた。


以前例の腸炎ではレントゲンを何度も取り、そのたびに右の乳首にピアスをいれてることを言われ(イヤな意味ではない。へぇ、めずらしいね、程度の反応で、私が唯一信頼している病院でのことだし、入院もそこでした)めんどくさくなって入院するときに外してしまったのだよなあ、自分は妙に塞がるのが早くて、もうほとんどあの穴は埋まってしまっているんだよなあ……なんてことを思い出していた。


あと他の病院ではレントゲンで一応外して下さいと言われそのままなくしてしまったこともある。高価なものではないが体の一部のようなものなので(1日2日では大丈夫だがあまり外していると耳穴が収縮してきて、入りにくくなってしまい痛い目をみる)今回は先にはずしておいて、ポケットに大事に入れておくことにした。


ねじをゆるめ、耳から外し、もう一度ねじを閉めてポケットに入れる。

説明がむずかしいが、アイレットというのだけど、ハトメのようなものだ。耳には厚みがあるからあれの厚みがあるバージョン、それが私のピアスだ。一見それと見てわからないところにねじがあって、耳に沿って円柱になり、はずれないよう両端は外側に広がっている。


私の星座、双子座を表すマークのような形を思い浮かべてもらえばいい。


そんなことをしていたらすぐに名前を呼ばれた。

着替えする部屋に通され、「2番を使って下さい」と言われる。ロッカーに2という番号がついていた。


そのロッカーに自分の衣類を仕舞い、検査衣に着替えろという。私はさっさと着替えた。どうして女子はトイレやら着替えやらやたら遅いのだろう?こういうところは早ければ早いほどいい。冬だったのですでに脱いでいたコートを乱暴にロッカーに押し込む。こういうときいちいちハンガーにかけたりしているのだろう、どうせ10分もすれば戻ってくるのだ。シワができるひまもないし意味はないだろう?

タートルネックと下着を一緒に脱ぐ。ブラジャーはもとよりしていなかった。Eカップの私は友達から「垂れるよぉ!」と言われていたが、あんな苦しいものをつけるのはごめんだ。それに私の乳房は美しくハリがある上にとてつもなくやわららく男性の手に少し余るくらいで、たれたらたれたで、熟女っぽさがあっていいんじゃないかと思っていた。さすがに夏はニプレスかタンクトップにカップがついているものを使用してはいるが。

そしてワイドパンツを脱ぎ捨てると、検査着を着た。荷物は棚にぶち込んだ。

ただ、一回ピアスのありかを確認するためにコートのポケットの中を見た。

ロッカーの鍵を閉める。鍵にでかい札がついていて「自分で持っていて下さい」と書いてある。


鍵を持って着替え室の鍵をあけるとCTスキャンの部屋に通される。


「ロッカーの鍵そこにおいて」

男の先生が指示を与える。どこか機械的な印象の人だった

「靴そこにぬいで、このベッドに横になって下さい」

「はい、仰向けでいいんですよね?」

「ええ、で、動かないようにして下さい。途中機械から「息を止める」と指示がでたらそのようにして下さい」

なんだかよくわからない機械が自分のお腹の上に移動する。

「でははじめます」

先生は外に出ていき、無人の部屋で数回機械からの「イキヲトメテクダサイ」「ラクニシテクダサイ」と言う指示がはいりそのとおりにできているのか不安になりながらしたがう。

日常生活の中で息を止めたのはなんとなく「死ねないだろうか」と湯船に潜り込んで以来だ。もちろん死ねなかった。


「はい、おわります」

5分もかからなかっただろう。

「じゃ、元の服に着替えて、待合室の方へ行って下さい」


私はまた最速と思えるはさやで着替えをすませ、検査着はここに入れて下さいという場所に検査着を突っ込んで、バッグを担ぎ、ピアスのねじをはめながら待合室へ向かった。


待合室に着くと、すぐに会計だった。

CTスキャンってすぐに結果がわかるものじゃないのか。

会計の人に説明してもらう。

「こちらから、内科さんの方に報告して起きますので、5日後以降に内科さんに結果を聞きに行って下さい」

内科を受けたのが月曜、今日は火曜日。

「来週の月曜日ならいいですか」

「ええ、大丈夫です」

そういえば血液検査の結果も一週間で結果がわかると言っていた。月曜以降ね、と言っていたなと思って私は次の月曜内科に報告を聞きにいくことにした。

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