氷晶[ひょうしょう:晩冬]
ぶあつい上着をきていても、はなとほっぺたがちぎれそうに冷たい。どうして寒さまでこんなにリアルにしちゃったんだろう。ひいおじいちゃんは答えてくれない。ここにあるのは思い出だけ。新しくわたしのために答えを考えてくれるなんてことはありえないんだ。
いつものように夜は終わりかけていて、目の前の林がレースもようのかげになりはじめる。わたしは白い息をはきながら朝日を待つ。
金色の光がさした。いちめんの雪がまぶしい。でも、なによりきらきらしているのは空気のなかをただよう氷のつぶだった。ラメをばらまいたみたい。手をのばすとそのひとつが指におちた。
ちいさな氷のつぶは、とけずにとげを伸ばしていく。絵本にでてくる雪のけっしょうのかたちになる。わたしのてのひらより大きくなったとき、あたたかさにつつまれる。もう寒さはどこかにいって、わたしはシャツとセーターを着ていて、うでに熱い生き物をだいている。これがむかしのわたし。わたしはひいおじいちゃんになりきって、子ねこみたいなわたしの頭をくしゃっとなでる。
ここはほんとうの世界じゃないし、ひいおじいちゃんとお話できるわけでもない。だけど、たまにたしかめたくなるんだ。ことばじゃなくて、あたたかさで、ひいおじいちゃんがわたしをどんなふうに大事にしてくれたかってこと。
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