日向ぼこ[ひなたぼこ:冬]
洗いたてのからだを柔らかな床に落とされてあたしはまどろみから覚めました。あたりはあたたかく、ひかりにみちています。まるっこいボディから気まぐれなしっぽの先までをくるむ、ふわふわの白い毛皮があたしのおもてがわです。くるんとからだを縮めると、あたし自身もその心地よさをかんじられます。
あたしのなかは空っぽです。ぷにっとしたお肉には体温があって、骨組みも動力もちゃんとあります。でも、自分がすっからかんになったしまったことはわかるのでした。初期化された記憶には辞書くらいしかありません。にんげんのとなりにいるために必要な情報が入ってるやつです。では、このなつかしさとしか呼べない、情報のぬけがらのようなものはなんなのでしょう。ひかりがあたしの毛皮をかがやかせ、ぬくもりをおいていきます。
あたしとそっくりおんなじからだをもつ仲間が一体、こちらにきました。しっぽをからめてあいさつをします。それのもつ寂しさはあたしより薄くて、かわりに太陽のにおいが濃く染みていました。
あたしたちはまえの主人を忘れます。からだを洗うように記憶も洗います。わずかにのこった寂しさや懐かしさを、ひなたのぬくもりが上書きしていきます。
毛皮がほんわりとふくらんで、ねむたくなってきました。
めざめたら、あたしはきっとまっさらです。ひとに寄り添うことしかしらない、かわいくあたたかく清潔な、つくりもののけものです。
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