第8話

「広葉さん」


 俺は今日の昼休みも広葉さんに話しかけた。昨日、笹窯ボコは俺についての話はしなかった。だがそれが広葉さんが笹窯ボコではないという理由にはならないと思った。昨日の会話は特段話題になるようなものではなかったし。変な事も言わなかったし。女装もしなかったし。


「なぁにぃ?」


 広葉さんは昨日と同じふんわりした声で返事をしてくれた。


「もう一回聞くけど、仙台の妖精って、知らない?」

「んー。わたしにはわかんない~」

「そっか……」

「でもいたらいいねぇ~。妖精さんはきっと面白いよぉ~」


 やっぱり広葉さんは笹窯ボコではないのだろうか。妖精でも笹かまぼこでもなくて人間なのは確定だろうけど。


「なになに二人でどうしたの?」


 そうしてしばらく広葉さんと話していたら、入幡さんが横からにゅるっと出てきた。


「あんためろんの事好きなの?」

「え」

「だって昨日も話しかけてたでしょ」

「あ、いや、それは……」

「わたしのこと、好きなのぉ~?」


 広葉さんがちょっと目を見開いて訊いてきた。ドキッとする。


「わたしは玉田くんのこと、好きだよぉ~」


 ニコっと微笑んでそう言われた。そしてじゃがりこをあーんと食べさせられた。心臓がバクバクする。


「おおっと告白!?」


 入幡さんがやたらテンションを上げてこちらを見てきた。多分広葉さんは確かに俺が好きだけど俺が好きなわけではない。矛盾しているけどなんかそんな感じがする。告白したらそういう意味じゃないとか言われるやつだ。


「えっと、いや、その……」

「さあさあさあさあ返事は!?」

「あ、あわわわ」


 俺はあわあわして答えられないまま、自分の席に戻った。あのまま広葉さんの顔を見ていたら好きになっちゃいそうだった。もちろんそういう意味で。



「えっと……大丈夫……?」


 席に戻ったら篠塚さんが心配そうに尋ねてくれた。


「笹かまぼこって、何なんだろうね……ほんとに……」


 俺がそう答えた、その時だった。


 もう少し広葉さんと長く話をして振り回されているか舞原に絡まれて疲れていたら、見逃していたかもしれない。


「ふ、深いね……」


 篠塚さんがほんの一瞬だけ、驚いた表情をしたように見えた。


「でも、美味しいよね」


 それから、篠塚さんは薄く微笑んだのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る