第9話

 笹窯ボコは今日も生配信をしていた。だが今日の配信は昨日までのただの雑談配信とは少し違った。


 なんと今日は牛タンを焼いて食べながら雑談をし始めたのだ。だが画面ではコロコロ表情を変えている白と茶色の髪の妖精っぽい二次元の女の子が何もせずに動いているだけだった。ジュージューと肉を焼く音だけが聞こえる。シュールである。ていうか妖精も牛タン食べるんだな。本当は俺のクラスメイトなんだろうけどさ。


『シュールすぎるw』


 チャット欄にいる人も同じように思っているようだった。


『やっぱり塩が一番合うよね』


 笹窯ボコは恐らく焼きたての牛タンを食べながらそんな事を言った。笹かまぼこという名前なら醤油じゃないのかとも思うが、こんなのはやっぱり野暮なんだろうな。俺も今日までの配信でそれを感じ取った。映像は無いが音だけでも牛タンが食べたい気分になった。今度仙台駅の辺りで食べようかな。


『美味しい。牛タン子に改名しようかな』


 彼女はそう続けた。確かに牛タンも仙台名物だけどそんな安直に改名考えるなよ、と思ったときだった。


『笹かまぼこって、なんなんだろうね……』

『ボコはボコちゃんでしょ』

『なにかあったの?』


 笹窯ボコはこう続けた。もし俺がただの視聴者だったら、いつもの不思議発言かなとかちょっと悩み事かな程度に受け止めていただろう。


 だけど、俺には。


 行き詰まっていたジグソーパズルが一気にはまり続けて完成したかのように、何かが、わかった。


 笹窯ボコのその一言で、俺は。


 ある一人のクラスメイトの顔が思い浮かんだ。


 そして、翌朝。


 俺は教室のドアを開け、とあるクラスメイトに声を掛けた。

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