第3話

 夜、俺は自室のベッドの上に倒れ込んだ。


 今日はなんか疲れた。帰宅部だし運動とかは別にしてないけどなんか疲れた。ほとんど舞原のせいだ。毎度のようにあのハイテンションで来られるのはちょっと疲れる。可愛いけど。可愛いけども。はぁ。


 とりあえずYouTubeでも見て気分転換しよう。最近は毎日見ていて日課になりつつある。とは言っても別に気に入っているYouTuberがいる訳ではない。何となく興味が湧いた動画があったらそれを見る感じだ。


 はてさて今日はどんな動画が上がっているのかなとスクロールして色々見てみる。あんまり面白そうなのはなさそうだなと思って指の動きを速めていたら、とある動画が画面に現れ、目と手が止まった。


「【雑談配信】おやすみ前に仙台の妖精VTuberとおはなししよう!【笹窯ボコ】」


 仙台ってここじゃん。ていうか仙台の妖精って何だ。俺はそんなの知らないぞ。ていうか笹窯ボコってまんま笹かまぼこじゃん。目は緑で髪は白髪に茶髪のグラデーションで服装はディズニーとかに出てくる妖精っぽい艶やかでぴっちりした感じの服だった。半透明の羽もついてる。


 ライブと赤く出ていたのでちょうど今配信中らしい。設定といいビジュアルといい色々と気になったのでサムネをタップして動画を開いてみた。


『最近ファミマの和風ツナパンがお気に入りでよく買ってるんだけど、みんなはどんなのが好き?』


 笹窯ボコはコロコロと表情を変えながら(イラストだけど)、確かに妖精みたいな可愛らしい声でそんな話をしていた。妖精もファミマに行くのか。まあ中身は普通の人間なはずだから行くんだろうけどもっとキャラ設定は大切にするべきなんじゃないかなと思うのは野暮なんだろうか。


『ボコちゃんが好き』

『ボコ一択』

『焼きそばパン』

『かわいい』

『おますき』

『メロンパン』


 チャット欄にはそんな文字が流れていた。どうやら野暮みたいだ。そんな風にしばらくゆるすぎる話をだらーっと聞いていたら、笹窯ボコは話題を変えた。

 

『ボコ、今日面白い事あったんだ』

『なになに?』

『男の子がね、女の子に俺はロリコンじゃなーい! って言ってるの聞いてちょっとクスってなった』

『なんでそんな事にw』

『草』

『わた、ボコも何で男の子がいきなりそんな事言ったのかわかんないんだけど、男女関係って色々大変なんだなーって思った』

『深いw』

『他人の痴話喧嘩で賢くなる女』


 ロリコンじゃないって深いか? 


 ん?


 俺じゃん。


 俺が舞原に言ったやつじゃん。あれ、となると。


 この笹窯ボコって、俺のクラスメイト……?


 だとすると一体誰だ。流石に舞原ではなさそうだけど。声に聞き覚えはあるか注意して聞いてみたがよくわからない。声だけじゃ誰なのか全く検討がつかない。VTuberだから当然見た目は当てにならないし。


『じゃ、みんなおやすみ。ばいばい。また明日も配信するね』

『おやすみー』

『乙』

『また明日ー』


 そうやって考えているうちに笹窯ボコの配信は終わった。どうやら明日も配信するらしい。健気で働き者の妖精さんだな。


 彼女が誰なのか確かめるには、いやそもそもあの発言の元が俺なのかもまだ確定ではない。


 よし。こうなったら明日もなんか話題になりそうな事してみるか。


 俺はそう思いながらアプリを閉じ、スマホをベッドの脇に置き、布団を被り、ゆっくりと眠りについた。

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