また仲間がふえたよ

上半身骨が浮き出てガリガリ。側から見ても正直長くはなさそうなジジイの身体……だったんだが。

「よく見とけよ、まあ全盛期に比べればそれほど保てなくなったがな」

と、めちゃくちゃ長い深呼吸。いやほんと長い。そこそこ広い馬車の中だが、俺たちが息苦しくなってしまうんじゃないかって思えるほどに長い。

突然ふんっ! と短い声を上げる……すると、

「行くよ!」同時にジールが、その筋張ったジジイの腹に思いきりナイフを突き刺した!

「ウワァ!」流石の俺とチビも思わず飛び退きそうに……って、あれ?

ジールは最後まで力を込めていた、普通なら……そう、普通だったら手にしたナイフはジジイなどてっ腹に深々と刺さっているのだが。

「これがじっちゃんの究極芸! タネも仕掛けもございません、さあさあみなさんもお試しあれ!」


大道芸人口調のジールがおもむろにナイフを俺に投げ渡してきたし、まさか俺にジジイを殺せとか言うんじゃねえだろうな!?

「いつもの半分くらいの力加減でいいよ、ラッシュの馬鹿力はちょっと強すぎるかも」

とはいっても、ケガの影響でまだまだ俺の身体にも力は戻ってきていない。それにこんな場所で死人を出すのも懲り懲りだからな……と、ジールに倣って同じくジジイの腹をグサリと刺した……が、えええ!?


刺さらない。つーかまるでジジイの身体がマジものの鋼鉄みたいだ!

「わ……わかったかい? こ、これがわしの得意とする芸……じゃ」

ぶはあ! とジジイは大きくまた息を吐いた。

「昔はこの状態で身体を鎖で身動きできなくさせて池に放り込んだり、棺桶に入れられて火をつけられたりしたものじゃ。流石にもうそこまではやれなくなったがな」


わっとどよめく歓声と共に、みんなが拍手し始めた。

なるほどこれがサーカスってやつか……だがなんでこんな時にジジイは俺に見せてきたんだ?

「分かるか? お前も修行すれば、このわしのように鋼鉄の身体に変わることも出来るかもしれんぞ?」

え……マジか?

「そうだよラッシュ、何事も鍛錬第一! ね?」今のジジイの芸で元気を取り戻したのか、ジールも俺ににこっと笑顔を見せてくれた。

ありがてえな……つーかもっと早く教えてくれたら、ここまでケガに苦しむことはなかったのに。でも後悔先に立たず、ってやつだ。今はとにかく身体を元通りにして、早く……


「エッザーーーーーーーール!!!! ついに見つけたんだヌ!!!」

いきなりだった、馬車の天井の幌布を引き裂いて落ちてきた焦げ茶色の丸っこい身体、それに何度も聞かされてブチ切れそうなほどのその口調。

そうだ、チャチャだ。あの狂戦士チャチャポヤスだ!

「エッザーーーーーール! ずっと邪魔が入ってアレやソレやナニやカニやで勝負できなかったんだヌ! 今こそお前を殺すんだヌ!」

「ま、待つんだチャチャ! こんな場所で殺し合いなんて無茶だ!」

「問答無用なんだヌ! ここでお前は無惨にも殺されてボクが勝利するんだヌ!」


「このボケ野郎が! フザけ……痛っ!!」

この狂戦士に一発殴って黙らせようとしたが……ダメだ、まだまだ力が出てくれなかった。

「仕方がないエッザーーーーール。今日はここで一時停戦だヌ。目的地に到着したらボクが勝つんだヌ」


「だから……こっちはむやみな戦いはしたくないんだと……」


ヤバい仲間が二人増えた馬車は、程なくしてシィレへと着くことができた。

だが、この地でまたもや厄介ごとが待ち受けていようとは、今の俺たちには到底分かるはずもなく……だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る