仲間がふえたよ
いろいろと話した翌日。傷の癒えないまま俺たち一行はエズモールを発つことにした。
まず立ち寄る場所? それはもちろんシィレだ。マティエがあそこのお偉いさんにいろいろ報告したい旨もあるって話だし、それに……
「昔からの言い伝えで、シィレにはどんな傷も瞬く間に治すという伝説の泉があるという話だ」
「そんなおとぎ話みたいな泉があるんですか!?」
「あくまで言い伝えだ。確証性はない」
馬車に揺られる中、エッザールはその言葉に目を丸くして驚いていた。そりゃそうだよな、つーかそんな泉が存在してたら取り合いで戦争どころじゃねえし。
俺の方はといえば。もう五日ほど経つというのに、ガーナザリウスから受けたダメージが全くといっていいほど治っていない。いや、それ以上に全身から疲れも抜け出ていない最悪の状態が続いている。
まあこんな時に襲撃されても普通に戦えることは戦えるけど、足引きずって息も絶え絶えな今の俺は相手にとって格好のターゲットだ。
「おとうたん、いたい?」
鼻面にはデカい湿布、胸には包帯。そして左足の甲には歩く時に痛みが響かないように、硬く包帯が巻かれている。
そんなボロボロの身体をさすりながら、チビは事あるごとに心配そうな目で俺に話してきた。
「ああ、大丈夫だ」そう答えてはいるが、内心焦りも隠せなかった。
このまま怪我が一生治らないまま……なんてことになったりでもしたらと思うと、いけねえ、まだ俺には果たさなきゃならないことがそれこそ山ほどあるんだ。なんとしてでも……!
とはいえ板張りの馬車の床の上だ、寝返りを打つたびに激痛でつい声が出てしまう。
隣で心配しているのはチビだけじゃない。ジールもだった。
「そろそろ湿布替えようか?」
最初は「まあこんなケガくらいすぐ治るでしょ、ラッシュなんだし」って笑ってはいたものの、今じゃそんな笑顔すら全く見せぬまま。口数も減ってしまった。
ちがう。俺はみんなに世話がかかってしまうことが一番つらいんだ。
そう思うと一気に不安が身体の重さと共にのしかかってくる。
「背負っちゃダメだよラッシュ、辛いときはちゃんと言って」
「そうじゃない、俺は……」言いたい心を胸の内でぐっとこらえた。
ジールにも、チビにも、そして仲間にも負担をかけさせたくないんだってことを。
くそっ、このまま俺はどこかへ消えてえ……っていでえええええ!
ジールの隣からひょこっと飛び出した小さいやつが、俺の鼻面を突然叩いた。
「だーいじょうぶじゃ。こんな傷、休んでればすぐに治る」
え、なんで採掘してたジジイがこんなとこにいるんだ? つーかエズモールで別れ際に手を振ってなかったか?
「えっ、じっちゃんなんで着いてきたのよ!?」流石のジールも驚いてた。
「かわいい娘のジールがホームシックになっとらんか心配での。ついつい」
いや、ついついじゃないってばと声を上げたジールの口を、ジジイは手で制した。
「ラッシュよ。お前悔しいんじゃろ?」
じーっと俺の胸の内を読み取っているかのような、その視線。
「言わんでも分かるわい。それにもっと強くなりたい……ともな」
「そこまで分かってるのかよ……爺さん」
俺の息も絶え絶えな言葉に、ジジイは自身のあばら骨の浮いた胸をドン! と叩いた。
「わしゃ剣を振るのはからっきしだがな。その気になりゃあ鋼鉄の身体になることもできるんじゃ」
「え……?」
「いや、そんなこと言ったってもう何十年も昔のことじゃない。あの芸は」
「いンや、毎日鍛錬は続けておるわい。試してみるかジール?」
……なんの話をしてるんだこの二人?
仕方ないなあ、とため息混じりにジールは懐から愛用のナイフを取り出し、床板にそいつを突き刺した。
「今からこれでじっちゃんを刺すから」
ええええええ!?ちょっとまてオイ! マジで刺すのか!? ケガどころじゃなく最悪死ぬぞ!!!
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
今度は手綱を握っているイーグがすげえ声が飛んできた。やめろ傷に響く!
「よーやくわかった!……その特技どっかで見覚えあったんだけど。鉄人バウランだったのか爺さん!!!」
「んあ……バレた?」
なんなんだ一体、このジジイってそんなに有名人だったのか!?
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