またまた仲間がふえたよ

一か月近く……いやそれ以上か。もうリオネング以上にここシィレもえらく懐かしく感じてきた。

とはいえ、馬車から降りるのも一苦労だ。早くその治癒の泉とやらに行ってケガを……って、なんなんだこの街の賑やかしさは!?


城門をくぐった時からなんか妙だった。俺たちがいた時には閑散としていた街が、すごくザワついているし。いやこれは俺たちが帰ってきてからじゃない……な。それより前に誰かお偉いさんが来たようにも感じられる。

「王族の連中がきたっぽいな。城の前にすっげきれいな馬車が停められてるし」イーグがそう俺たちに教えてくれた。

かく言うこっちは……重傷の俺に加えて、人間に戻ったジャノ(ただしまだ本調子じゃない)もいる。

「ラッシュ兄貴、まだ痛むの?」エッザールに肩を借り、斧を杖がわりにしている俺はさぞかし異様に見えるかも知れない。

そうだ……ジャノにも心配されちまって本当に情けない限りだ。


先に城へと向かったマティエが戻ってくるまで、休む宿でも探すか……と残ったみんなで話していた、そんな時だった。


「ラッシュ……?」

振り返るとそこには、ラザトにルース、そして……

エセリア姫……いや、ネネルがいた。しかしなぜこんなところに? まさか俺たちの後をつけてきた訳じゃねえだろうな?

「一体、何があったのじゃラッシュ!? 岩よりも頑強なお主が、そんな!!」

大慌てで駆け寄るなり、突然姫は俺の胸に飛び込んで……っていてえええええええ!

いやそうじゃない、泣いている……倒れた俺の胸の中で、姫が大粒の涙を流して……っ、いたたたたたた。オマケに苦しいし、流石の俺も思わずうめき声を上げちまった。


…………………

………………

…………

「鼻面と胸の骨にヒビが入ってる、それに足の甲の骨は砕けてるみたいだ……これじゃまともに息をすることも、歩くこともできない」

シィレの城にある一室で、ルースが俺の身体を診てくれた。

どうやら予想以上に傷は酷かったようだ。なまじ無理して歩いてたから、余計に。

「でも、ラッシュはこれくらいの負傷なんて一日寝てればすぐに治ってたはずだ。それが一体なぜ……」

頭を抱えるルースの肩に、姫が優しく手を置いてくれた。

「ご苦労だったルース。あとは妾が診てみよう」

「え、ネネル……医術の心得なんてありましたっけ?」

白い大理石で作られた小さな部屋には、俺とルース、そしてネネルの三人しかいなかった。

「さっきマティエから聞いたのだが、ラッシュ……お主、ヴェールとやらが蘇らせた黒衣の始祖になす術もなく打ちのめされたらしいな」

ヴェール……その言葉に、ルースの耳がぴくっと鋭く動いた。

「黒衣の始祖……それはいったい?」

順に説明すると告げると、ネネルはベッドに横になっていた俺の胸に小さな細い枯れ枝のような人形を置いた。

「ズパ。診れるか?」

「久しぶりだねラッシュ、ボクだよわかる? ズパさんだよ」

ひどく小さな身体になってはいたが……そうだ、ズァンパトウだ。

「ちょっとキミの記憶を見させてもらうよ。姫様やルースと共有したいんでね」

というとあいつはおもむろに指を長く伸ばし、その一本一本を俺の頭の至る所にはりつけた。

一瞬、めまいにも似た感覚が俺の頭を走っていった。

「ふむ、なるほど……な」

「ズパさん、何かつかめたかい?」ズパはずっと解いた腕を組んだまま、独り言をぶつぶつとつぶやいたまま。

まさか、いや、そんなバカな……と。

「これは非常に厄介なことになったな……」

「うん、かなりヤバいよね」

なんだよネネルも揃って二人とも、まるで俺が死ぬみたいじゃないか。


「ラッシュ、いいか……落ち着いて妾の話を聞いてくれ」

意を結したのか、ネネルが小さな手のひらで俺の手を優しく包み、告げてくれた。

「この傷……これは恐らく始祖ガーナザリウスとの戦いで、お主の生命力そのものが奴に吸い取られてしまったのじゃ」

ごくりと、ネネルは生唾を飲み込んだ。


「下手をすれば……一生治らんかも知れぬ」

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