父と子、そして嫁
と危惧してたら、やはり予想は的中した。フィンがパチャを連れて。
案の定フィンの顔がこわばってた。隣にいたパチャはというと……察しているのかいないのか「フィンの父ちゃん?」っていつものペースだったし。
「あ、あの……僕がバイトとして呼んだんだ、手荒なことするんだったら」
「いや、いい。どうせなら……」と、視線を移さぬまま、ラザトは僕に金貨一枚を手渡した。
「午前中、貸し切りな」って。なるほどそういうことか。
フィンとパチャとラザト。お客は三人。ラザトはパチャと初めて顔合わせしたみたいだしね、この際だから全て話し合っておく気なんだろうな。
まあ別に僕は構わないけどさ……金貨一枚だなんて下手したら僕の酒場での賃金のゆうに数ヶ月分だし。でもお金じゃないことは充分承知だ。
僕にできることは……そうだ、この三人の仲を取り持つ食事を考えなければ、って。
こりゃお客さん一発目から難儀なことになってきた!
……………………
………………
…………
店の奥にある四人掛けのいちばん大きなテーブルには、ラザトと、向いにはフィンとパチャ。
フィンの方は怯えてるのかな……ずうっと目を合わさずに下を向いたままだ。
「……お前とこうやって話すのも久しぶりだな」口火を切ったのはラザトからだった。
「し、知ってて待ってたのか?」
事前にラザトには言われてた。絶対に俺は拳を振るわない。安心しろって。
そう、いまのラザトは酔っぱらいのギルド長とは違う。このリオネングの親衛隊を任された立派な役職付きの人間なんだ。もう自分の身の在りどころは分かっているはず。だからこそ僕もラザトを信じたんだ。
「いや知らん。たまたまだ」と、ラザトはパチャの方へと目を向けた。
「パチャカルーヤ……だったか。確か息子の嫁さんになったとか」
「え、ああ……とはいってもあたいの村の変なしきたりだからね」
ぷっ、とラザトは吹き出した。「だろうな……俺も知る限りじゃそんな奇妙な風習は聞いたことないし」
いきなり笑って返されたからか、向かいの一応の夫婦はちょっと不機嫌そうだった。
今度はフィンの番だ。
「どうせ結婚なんて認めねえって言うんだろ?」
「そりゃそうだ。普通に考えてみろ。どこぞの村の政略結婚でもない限り、この手の不都合なことはあまり首を縦に振りたくないからな」
「じゃいいよ、俺もパチャもリオネング出てやる!」
立ちあがろうとしたフィンに、ラザトはひとこと言い放った。
「まあ待て」って。
「え……じゃあなんで止めるんだよクソ親父!」
酒が入ってないからかどうかは分からないけど、今日のラザトはすごく物静かだった。普段は寝てるか僕らに愚痴話しているかのどちらかしかなかったのに。
「故郷の母さんはどうだ?」
「寝たり起きたりだよ……あまり体調はよくない」
「フィン、お前は……俺が家を捨てたのが元凶だと思ってるだろうな」
「ああ、だから憎いんだ」
やっぱりな。とラザトは背後の窓にかかっていたカーテンを開けた。
「今さらこんなこと言っても、まあ信じてもらえんとも思うけどな」
朝の霧が徐々に消え、雲のすき間から陽の光が店の中に差し込んだ。
フィンの母さんはラザトに捨てられたんじゃない、ラザトが大成するためには今の家に居続けてはいけない。だからこそ母さんはあえてラザトを村から出した……ってラザトは訥々と語ってくれた。
もちろんフィンはウソだ! って激怒してた。パチャはどっちの肩を持とうかあわあわしてたし、僕はといえば……
答えとなる料理を導き出して、一心不乱に作っていた。
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