母と娘と

ーその頃。ジャノたち砂漠の家族は。

「うまいねこの肉巻き。なんか珍しい味してるし」

「そうだね、あの子たちはアラハスから来たとか話してたし、そこのスパイスでも使ったみたいだね」

「おっ母、あらはすってなに?」

ラッシュたちが残してくれた食料、それはアラハスの宴のときの残りを包んでくれたものだった。

「この砂漠のずっと先にあるモグラ族の街さ。そこでしか採れない宝石やらスパイスがあってね、昔から中立地帯なんだ」

「チューリッチタイ……?」ジャノの理解不能な答えに、母は頭を抱えていた。


「ジャノ、ちょっと話がある」

ふと、幾分悩んだ末、母はまた口を開いた。

「どうしたのおっ母?」

妹たちが寝静まった、満天の星が空を埋め尽くす中だった。

「母さんね、あんたにずっと嘘をついてたんだ……」

「え、なんだよ嘘って?」

ジャノの前で、母は口元に巻いていたスカーフを外した。

ずっと火傷の醜い痕だと言い続けていたその下には、人間と変わらない口が。

「え、おっ母……その口!?」

「ああ、まず一つ目の嘘。私は火傷なんかしちゃいない……この通り、半分人間と同じなんだ」

「マジかよ……ずっと獣人だとばっかり」

ジャノは母の人間の部分に触れた。顔半分、そして身体の半分。

傷ひとつない、やや浅黒いすべすべの人間そのものの皮膚だった。

「それともうひとつ、お前に酷い嘘をついていたんだ……」

ごくり、とジャノは乾いた唾を飲み込んだ。

「私は……ずっとお前のことを拾い子だって言ってたよね」

「う、うん……兄貴はおっ母が産んだけど、俺は村の焼け跡で拾ったって……」


「お前も私が産んだ子なんだ。こんな醜い身体だからね、絶対に言うまいと思ってた」

「おっ母……ってつまり、兄貴みたいな獣人と人間のあたしと二人産めちゃったってこと?」

「そうだ、不思議だろ……けどこれは本当のことさ」

そしてその事実を先に告げた兄……ガンデは、自立すべく砂漠を後にした。

いつかはばれてしまうこの事実を、自身の胸にしまったまま。

「じ、じゃあおっ母はほんとのおっ母なんだね? 」

こくりとうなずく間もなく、ジャノは母の胸に飛び込んだ。

「うれしい……ずっとおっ母もお父も死んだって思ってたから!」

「ごめんねジャノ……こんな母親失格なことしちゃって」

だから、と母はぐっと娘の身体を引き離し、静かに告げた。


「ここを出て、お前は父さんの故郷リオネングに行け」と。

「え……いきなりなんなんだよ、俺ずっとここでおっ母と一緒に暮らしたいよ。別にお父のことなんて……」

「いいか、リオネングにはお前とガンデの父さんがいる。そこに行って母さんのことを伝えてもらいたいんだ。こんな姿だけど元気でやってるよって」

そして彼女は、いつまでも想い続けていた父、ガンデに倣って息子の名前を同じにしたことも話した。

「えっと、つまり兄貴の名前をガンデにしたのは離れて暮らしてるお父の……あああもうややこしい!」

「そうさ、そしてリオネングに行ってたくさん勉強するんだ。この世界は広い……いつまでもお前はここに居てはいけないんだ、分かるか?」

「……いきなりそんなこと言われても分かんねえよ」


それは、スーレイに向かうジールたちと遭遇する数時間前のことだった。

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