ほんの一瞬の出来事
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滝のように流れ出た汗が、俺の足元を濡らしていた。
「ふふっ、目が覚めたかいラッシュ」
目の前には、そう……さっき俺が喉笛を食いちぎった、って、あれ?
「うわぁぁあっ!」と、俺は反射的に飛び退いてしまった。
俺は今どこにいるんだ? 何をやってたんだ?
……生きているのか?
「まだまだ意識と記憶が混濁してるみたいだね。まあそれはしょうかないか」
すでに離れていたズァンパトゥの手が、水晶のかけらのように尖った指が、俺の鼻先をちょんと突っついた。
「ボクの完敗だよ」
その瞬間、ふわっと俺の身体が軽くなったように感じた。
そうだった、両腕失くして最後は石になりつつも、奴の喉に食らいついたんだっけか。
「だけどあの場所にいたボクはボクじゃあない。キミも同様さ」
「わかる……あくまで複数あるうちの将来の姿……だろ?」
「ご名答! そして今、その事実が解明したことであの未来は消滅した。なぜだか分かるね?」
両肩をぐるぐると回す。大丈夫だ。俺の腕はもげてはいない。
「あの悲劇を常に念頭において生きていけるから……か?」
そうだ。あの未来ではジールもトガリもルースもいなかった。チビやフィンの思わせぶりな言葉によると、どうやら道半ばで死んでしまったみたいだったようだし。
「さすがはボクの見込んだ戦士だ。王様になろうとなるまいと、その賢明さは変わらないと思うよ」
「えっと、さっきからなに訳のわからないこと話してるの?」
やべえ、ルースいたんだ、すっかり忘れてた。
しかし……こいつの意識に取り込まれてから一体どのくらいの時間が経っていたんだろう。俺はチビの背中を抱いたままのルースに聞いてみた。
「い、いや……僕の前でラッシュと彼がずっと見つめあってただけだよ? 時間もなにもまったく経ってないし」
マジかよ、つまりはあんだけ長い間戦ってたのに、全然時間は過ぎてなかったってえのか!?
とりあえずこのことは後で話すにして……まだまだ問題は山積みだ。
「そうだね。キミが勝利したことには変わりはない。だからダジュレイに汚染された土壌はボクが責任もってスグに浄化してあげるよ」
この口軽野郎はあっけらかんと言い放ちやがった。まあでもこれでお役目は済んだってことか?
「そうだ、どーせだからさ、もう一つキミたちのお願いを叶えてあげるかわりに、ボクのお願いも聞いてくれないかな?」
え……!? 唐突になにを言ってンだこいつは。
「ボクからのお願いは簡単さ。ここに神様として縛りつけられてるのもそろそろ飽きてきちゃったしね。そこへ現れたのがラッシュ、キミさ。キミの記憶と戦ってたら……ふふっ」
ズァンパトウはおもむろに両手を俺の肩にポンと置いた、また何かする気か?
「……キミのことを好きになっちゃったんだ」
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