決着

力すらもう込められなくなった両の足で踏ん張る。ぐっと剣の柄を噛み締めて。

五感って言ってたっけ……見るのと触るのとしゃべるのと聴くのと、もうそんなものはとっくに失くしちまった。

感じることができるのは奴の匂いだけだ。わずかに血に汚れた匂い。

その方向に向かって俺はじっと睨みを効かせた。「これで最後だ」って声にならない言葉をぶつけながら。

あいつは右腕がもげただけ。俺はというと両腕が崩れ落ちて、もはや立つのもやっとだ。本来なら完全に死んでただろうな。


ぶざまな姿かも知れないな、今の俺。

そうだ、このまま死んじまったら、あの世の親方にぶん殴られちまいそうだしな。

「いいか、決闘で死んで負けるなんてのはクズだ。死ぬんだったら勝って死ね!」

以前そんなこと言ってたっけ、しかし勝って死ぬって、それは相討ちみたいなモンじゃねえか……?

思わず、プッと吹き出しちまった。こんな時にでも親方のことしか思い出せない俺って、本当にバカだよなぁ。


さて……勝算はあるのか? まともに剣すら持てない身体で。

ああ、そうだったな。ある……ひとつだけ。

奴のムカつくまでの余裕を持ったそのクソな態度、それこそが弱点。

そしてもうひとつ。つーか二つじゃねえか!


「受けてやるよ無能な王ラッシュ! だがその身体で存分に剣なぞ振れるのか? あきらめろ、貴様に勝算はない!」

ぺちゃくちゃうるせえんだ! だがその声のする方向に俺は突き進めばいいだけだ!

剣よ……届いてくれ、そして奴の懐に一撃だけでも!

真っ赤な視界の隅におぼろげながら浮かんだその一点。

打ち砕いたあいつの右腕から、胸元にまで刻まれたヒビ割れ。

そこに切っ先を!


バキッと鋭い音と共に、思い切り首ごと振りかざした剣が、奴の胸のひび割れた傷に刺さった。

この感触、間違いない!

「うおおおおおおっ!」そのまま全体重をかけて突き刺す。

「き、貴様ァァァァ!」

まだだ! 俺は奴の足を蹴飛ばし、仰向けにブッ倒した。

ズァンパトウの左腕が何度も俺を殴りつけ、引き剥がそうとする。

倒れた奴の身体を右足で踏みつけたまま、俺は残された左の足で剣の柄をぐっと踏みつけた。

これ、テコの原理っていうんだっけか。

刺さった剣は折れることなく、そのままメキメキと奴の胸板を引き裂いた。

「グァァァァァ!!」断末魔にも似た叫び。

だが奴の身体に触れた代償がすぐさま襲い掛かる。

右足がだんだんと固まってきた、いや左足もか!? だがもう動くことすらままならない。


分かる、奴がこのまま真っ二つに千切れたところで完全に死ぬなんてことはない。

「グハハハ! 分かるか愚鈍王、この程度のことでこの私が……!」

「ごちゃごちゃうるせえんだ!」


最後に残された武器……そうだ、この牙だ。

俺はまだまだ減らず口を叩いている奴の……ズァンパトウの喉笛に噛みつき、ぐっと引きちぎった!

ゴボッと、奴の血らしきものが俺の顔面を濡らした。

「ぎ……ぎさま、往生際の悪い……」あふれ出る血が奴の言葉を濁らす。

「だが……この私が負けたとごろで、貴様も同様……だ……」

足から胸へ、そして頭へと固まりつつある感覚が襲った。


ああ、俺はこのまま石像になっちまうってことか……

だが奴に勝って死ぬんだ。悔いはねえ。


大丈夫、親方には胸を張って言えるさ。

「俺の戦い方、見てくれたか?」って……やべえ、なんか頭がぼうっとしてきた……これが死ぬってやつか。



ーお父さん!


あ、そうだ……チビがいたんだった。


悪ぃ、俺は、もう……

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