望む未来、ありえる未来 その4
バケモノに請われるがまま、俺は戦いの準備をした。
「ほら父さん、剣だよ」と、チビが持ってきた俺のための剣……? 剣なのか?
斧じゃないのがすっげえ不満なんだが、出されたその巨大な得物は、ひどく無骨な作りだった。
俺の背丈よりデカく、そして片刃、おまけに内側にわずかに反りがあって、とどめに切っ先すら存在しない。
言い換えるならば、藪を切り拓く時に使う鉈を巨大にしたような、そんなフォルムだ。
無骨といえばもうひとつ。この剣……まるで岩から削り出したかのように刀身がデコボコしてる、本当に斬れるのかこいつ?
「何年ぶりだろうね、この剣使うの」
なんてチビはこの不恰好な剣の黒い刀身を見ながらつぶやいていた。とはいうものの俺にはさっぱりだ。
振り心地は……というと、かなり重い。ほんとに岩そのものを持ち上げている感じだ。
だが……うん、悪くねえ。
肩に担ぎ上げ、俺は改めてズァンパトゥを目に止めた。
見覚えある……んだが、どこで会ったかなこいつ。
「ナシャガルが城で世話になったな」
言われて気づいた、そうだ、以前城で倒したことあったっけか! 枯れ木の化け物……そうだ、けどナシャガルって名前は初めて知ったな。
「ダジュレイの仲間でもある……そうじゃないのか? マシャンヴァルの侍者よ」
「ふん、誰かと思えば御子か。あんな下卑たるものと一緒にするな」
そうだった、チビはマシャンヴァルの……いや、そんな事はどうでもいいか。
「父さん……ご無事で」
そんな心配そうな顔をチビの頭にポンと手を置く。
言葉なんてここではもう必要ない。俺が生きて帰ってくれば、それが無事な証拠ってことになるしな。
対するズァンパトゥといえば……余裕なのか、その樹木のような巨大な身体は微動だにしない。
あの腕そのものが武器ってことは分かってる。だったらその腕ごとぶち砕けばいいだけだ!
「うおおおおおおおおっ!」
雄叫びとともに、俺は上段に構えた剣を振り下ろした。
使い勝手? ンなもん斧と変わりねえ!
ゴン! と鉄の塊をブン殴るような衝撃が俺の両腕と全身を駆け巡った。
いいぜこの感覚、瞬く間に俺の血が熱くなってきた!
……が。
「なかなか重い腕をしているな、だが俺には通じぬ」
奴は一撃を受け止めたと同時に弾いていた。地面にめり込んでいたのは奴の腕ではなく、俺の剣だった。
「本当の重さというのは……な!」今度はズァンパトゥの拳が俺の腹に飛んできた。
防ぐヒマすらない。やべええええ!
メキッと、鉄の鎧越しにあばら骨が逝った音。そのまま吹っ飛ば……されるかぁぁぁぁあ!
ぐっと足を踏ん張り、俺は攻撃をそのまま受け止めた。そして……
腹に食い込んだままの奴の拳を掴みとり、一気に投げ飛ばした。
相手の攻撃を流して(いやきちんと流してなかったけど)ぶん投げる。これ親方に習ったんだっけか……?
とはいえ俺も無事じゃ済まされなかった。ひしゃげた鎧を脱ぎ捨てると、腹の奥に溜まっていた血の塊をぺっと吐き捨てる。
呼吸するのも辛い。こんなすげえ攻撃を喰らったなんて生まれて初めてかもな……
「ふむ、力まかせのバカな頭じゃ無いことは、とりあえず分かった」
投げられ、血のぬかるみに埋もれたズァンパトゥがよろよろと起き上がった。
やべえな……あっちはほとんど無傷だ。
こんな攻撃何度も喰らったら、流石の俺でも死ぬかもな。
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