望む未来、ありえる未来 その3
城門の外は、懐かしい地獄が広がっていた。
いや、懐かしいだなんて言ったら失礼だな。
斃れているのはみんな同胞である俺たち獣人と、あの時対峙したマシャンヴァルの兵、それに……以前見たこの鎧の紋章、そうだ、俺たちがいたリオネングだ。
同胞の死体の一人ひとりの顔を確認し、ゆっくり歩みを進める。
「みんな、父さんを信じて倒れていったんだね……」
チビの言葉に、俺はうなづくことすら出来なかった。
胸がつまる。こいつらはみんな俺の理想郷のために散っていっただなんて。
地面に広がった血を一掴み、俺は胸の鎧に塗りつけた。これで俺とお前らは一緒だ、って言葉と共に。
そして俺がこの地で屍となり果てようとも、また同胞と共に土に還ろう。
……あれ、これ誰が言ったんだっけな?
遥か前方には、樹木のお化けのような巨大な存在が、生き残りの部隊を相手にその鞭のようにしなる腕を振り回していた。
弾かれる……? いや、それ以上の衝撃だ、食らったと同時に手足が四散し、人はただの血の霧となった。
そばにいた馬に乗り、俺とチビはぬかるんだ戦場を駆け、あの忌まわしき最後の敵、ズァンパトゥの元へと急いだ。
あ、それはそうと、俺の武器!
「チビ、俺の斧を!」
「え、斧……? なんでまたこんな時に?」
会話が噛み合わない、俺の斧だ、ラウリスタの鍛えしあの大斧!
「もうとっくに手放しちゃったじゃない。父さん……いつの話しをしてるのさ」
激しく揺れる馬上で、チビも俺の後ろで振り落とされまいと必死に掴まっている。
まあいい、いや良くはないが今は奴の元へ向かう方が先決だ。
……ズァンパトゥの姿を見とめた時には、もう足元にはさっきまで同胞だった存在の無惨な躯が大量に転がっていた。
それを見たチビが思わず吐きそうになる。
「な、なんでこんな酷いことを……」
言う通りだ。相手を殺すだけなら、ここまでやらなくてもいい。それを……!
まだ生温かな赤い地面を踏みしめながら、俺はズァンパトゥの前に立ちはだかった。
奴も分かっているのか、俺が近づくまで手を出してこなかった。
「初めまして……いや、お前とは一度会ったことがあったかな?」
顔面にあたる場所には黒く輝く巨大な宝石のようなものがはめ込まれていて、口の代わりにその宝石の中の無数の星々が明滅していた。
「約束通り来た。俺がヒューグレイ国の王、ラッシュだ」
「ふふふ、又の名を傭兵王ラッシュ……いや、愚鈍王とも呼ばれていたかな」
嘲笑いと共にムカつく言葉をぶつける。たしかに愚鈍王かもな、まあそれは敵国が付けた蔑称だが……っていや違う、この名前は仲間が冗談半分で付けたのを俺が気に入ってたんだっけか?
ダメだ、まだ頭の中がこんがらがっている。
「お前がマシャンヴァル最後の侍者、ズァンパトゥだな」
「愚鈍王にしてはよく覚えていたな。ありがたい」
そう、俺こそが全ての血と知を受け継ぐ者さ、と黒く光る胸を張り、奴は応えた。
だけどこいつ、俺が知っているお調子者のズァンパトゥとは全然違う……いったい何がやつをここまで変えたんだ?
「ラッシュ王よ、貴様をここに呼んだ意味……分かるか?」
背丈にしてざっと俺の倍はあるだろうか、いや、さっきまではもっと巨大だったようにすら感じたのだが。
「てめえと俺との一騎打ちを望む。って言いたいんだろ?」
宝石の中の星たちが、突然人の目鼻と同じ配列を成してきた。
「ふふ、まさにそうだ。リオネングの王はこの俺様を召喚させるために、我が命を贄にした。ゆえにこれこそが最後の存在というわけだ」
泣いても笑ってもリオネングにはこの気色悪いバケモノしか残されてないってことか。だから……
「そうだ、一騎打ちだ。貴様が勝てばリオネングは滅び、念願である世界統一を成し遂げることができる。だがもし貴様が負けたときは……」
分かる。このバケモノに勝てるやつなんか、世界のどこにも存在しないってことをな。
だからこその、世界最後の一騎打ちってことになるわけだ。
「……面白えじゃねえか」
胸の奥から湧き上がる戦いの衝動に、思わず舌なめずりをしちまった。
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