情報共有 レッスン1
ジャノたちと別れて、俺たちは大急ぎでスーレイへと向かった。
手持ちのメシもあいつらに半分近くあげてしまったし、今日中につかねえと逆に俺らの方が餓死しちまう。
俺の胸の中では終始機嫌がいいチビ。それとは裏腹に、ずっと遠くを見つめたまま。なにか考えごとでもしているみたいだ。
「またおばちゃんとこいく?」
「そうだな、無事に戻れたらまた会いに行こうな」
やっぱり母親が恋しいのかな。ジャノの母ちゃんのことを話してばかりだ。
母ちゃん……か。まあ俺だってそうだ。物心つく前からもう記憶の中には親方しかいなかったんだし。つまりは男親だけ。でもってチビにも俺との思い出しかなさそうだし。
二人揃って男親。母親って一体どんな感じなんだろうな。
そんな他愛のない質問をルースに浴びせてみた。
「……」反応がない。完全に上の空だ。
「ルース、聞こえてるか?」
「……」
たまにあるんだよなこいつ。悩んでたり考え込んでたりすると、いくら呼びかけても返事がなかったり。
そんな時は……殴って正気に戻すしかないんだが。
「え、あー……母さんの思い出かあ」
突然、夢から覚めたかのようにルースが返してきた。
「どんな時にでも優しさを失う事はなかった……ずっと側に居続けたい。そんな存在かな」
なるほど。言ってることが全然分からねえ。
「ラッシュは母親に会いたいって思ったことある?」
いきなりそんなこと言われてもなあ……初めてそれを知ったのはマルデでの戦いの時だし、正直なところどうだっていいというウヤムヤな結論にか辿り着くことができない。
「さて、お主ら二人。そろそろ話しておかないとな」
あまりに唐突なチビ……いや、ネネルの出現に、俺とルース二人でのけ反りそうになり、危うく馬から落ちそうになった。
「チビ……いや違う。誰だ?」
「お初にお目にかかる……いや、ずっと前からお世話になっていたのだな。ルース・ブラン=デュノ」
「なぜ僕の名を!? 誰だお前は!」
何者かに乗り移られ、生気のない瞳をしたチビの姿。
そういやルースに話す話すといってすっかり忘れてたな。
「なんでわざわざこんな時に現れたんだネネル?」
「たわけ。わざわざなどではない。お主がきちんと説明出来るかどうか心配していたのだぞ」
「そんなの簡単にできるわ」
「ウソを言うな。お主が稀に見る口下手なのは明らかだ。ゆえに妾が……」
「えっと、口論やるより先に僕に説明してくれないかな。全然理解が追いつかないんだ」
やれやれとため息混じりに、ネネルはルースへと向き直った。
「ルース・ブラン=デュノ。まず最初にこの私、ディオネネル=ズゥ=マシャンヴァルについて説明せぬといかんな。ともあれ。今から話すことは他言無用のこと、お主は守れるであろうな?」
「マシャンヴァル……だと?」
ネネルの憑依した身体は、コクリとうなずいた。
「心して聴くが良い。妾のこと、そしてかつての依代であった、エセリア=フラザント=レーヌ=ド・リオネングのことを」
「エセリア姫……依代って、つまりお前は!?」
「そうじゃ。エセリアは妾であり、ネネルである妾こそエセリアである。いや……エセリアであった、と言った方が正しいか」
驚きを隠せないルースを気にも止めることなく、ネネルは話を続けた。
そう、以前俺に話したことすべてだ。
病弱なエセリアの元に、マシャンヴァルから逃げてきたネネルが「喰らう」ことで僅かばかりの延命を図ったこと。
エセリアの身体はネネルと共有されていたこと。
そして、あいつの命が尽きるしばらくの間、城を抜け出し……
俺と逢っていたことを。
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