情報共有 レッスン2

「薄々、感じてはいたことだけど……流石に断定されると、ね」

汗か涙かわからないが、ネネルの話を聞いていたルースは、しきりに顔を拭っていた。

「あまりに唐突だとは思っていたさ。骨のように痩せこけてて、目を離した隙にいつこの世を去ってもおかしくはないな、と自分でも悟っていた……あの姫が、ある日瑞々しい肌になってて、そして突然立ち上がって、よろける事なく歩いていたんだ。周りは僕の薬のおかげだとは言ってたけど……」

「信じてはくれたか、ブラン=デュノよ」

「信じるもなにも、それら全て事実なんでしょう? ネネル姫」

「苛立ちがひしひしと伝わってくるのお……だが父の代からずっと彼女を世話してきたお主からしてみれば、妾を憎む気持ち、分からんでもない。実際それ相応の事をしたのだからな。けどこれだけは知って欲しい。彼女の生きたいという願いと、妾の人として生きたい願いは、あの時確かに合致したのじゃ」

頭を抱えたままのルースを、チビの声が優しく包み込んだ。

「生きたいという気持ち……お主にもあるのだろう?」

「……知っていたのか?」

「お主の父から嫌というほど聞かされたさ」

ああ、例のルースの身体のことか。こいつも全てお見通しだったとはな。


「とりあえずネネル姫。あなたの事は保留……というか僕もこの胸にしまっておくことにするよ」

「感謝する。ブラン=デュノ」

だが、と一息おいたルースは、さらなる質問を投げかけた。

「姫は……いや、マシャンヴァルの姫として、あなたはリオネングをどうしたいんだ?」

くすっとネネルの口から笑いがこぼれた。

「お主は妾のことをマシャンヴァルの姫とは言ったが、自身はもうあの国は捨てている。許されることかどうかは分からぬが、妾はこのリオネングのために全てを捧げたい……常々そう思っている。それに……」

チビの、いやネネルの手が、ポンと俺の胸を叩いた。

「妾もひとりの女性として、自由に恋をしてみたいのだ」

「えっ待って!? ネネル姫、それ、もしかして……」

「ああ。この能無しの無頼漢はな、妾の好みにちょうどなのじゃ」

ああ……やっぱりな。エセリアはともかくとして、こいつも俺のことを忘れていなかったのか。参ったなこりゃ。


「愛されてるね……ラッシュは」

なぜかその一言がすげえ寂しげな顔だったけど……まあいい。とりあえずはネネルのことを信用してもらえたからにはな。これで心強い仲間が増えたってことか。


「ところでさ、ダジュレイの血で穢れてしまった土地を回復させるのに、スーレイにいるザン……なんとかに会うことが必須って聞いたけど、そいつにはどうやったら会えるの?」


あ、そう言われてみたら確かに。スーレイのズァンパトゥに会えとは言われたけど、どこでどうやれば会うことができるんだ?

「……」

「おいネネル。黙ってねーで返事しろ」

「……」返事がない。

顔をのぞき込んでみると。チビは目を閉じたまま、つまりは……


はあ。なんで肝心なとこでいなくなっちまうんだよ……






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