真贋
「つまり、ワグネルという名前は……」エッザールの失意の言葉に、ナウヴェルは一言、そういうことだとつぶやいた。
「取り越し苦労だったな。私は確かに刀工の一族。だが何百年も前、君たちのお爺さんが生まれるより遙か昔にその道を歩んではおらんかったのだ」
そうは言われたものの、内心エッザールは嬉しかった。
これは全然取り越し苦労なんかじゃない。ずっと謎に包まれていたワグネルという存在がついに明らかになったのだから。
この事を早くラッシュにも報告しなければ。
……と、そういえばラッシュが話していたワグネルって。
「でも、ラッシュは確か、ワグネルは人間だって言ってなかったっけ?」
そう、ルースの言うとおりだ。彼はあの大斧を街の人間の鍛冶屋に依頼したって。だとしたらそれはおかしいのではないか?
「ナウヴェルさん、一つ質問が」
それは、まだエッザール自身すら知らなかったこと。
「ワグネル……いや、神刀工が武具を造る際、なにか条件とか信念とかはあるのでしょうか」
恐らく、大金や名声を得るために彼らは仕事をするのではないだろう。
だとしたら、そこには理由があるはず。たとえば一宿一飯の恩義みたいなものでもいい。なにかあるはずだ!
「うむ、また答えてはなかったな……軽い気持ちで造ることはない。もちろんカネを積まれたって気乗りしなければ動かん。我々はそれを我が手にしたいと願う担い手と一対一で対峙し、その者の強い思いを見るのだ。それがシャウズであり、ソーンダイク家の武器を造るきっかけとなったわけだ。一族の誉れとなる聖槍にしかり、旅陣の証となる剣にしかり……な」
「じゃあ、ラッシュさんが会ったその老人というのは……」
エッザールの言葉に、ナウヴェルの小さな目の奥が光ったように見えた。
「確かに、その人間はワグネルといったのか?」
「ええ、実際に彼はそう話してました、それに私の剣に大斧も共鳴しましたし」
ナウヴェルは雨降る庭のはるか上、鉛色の空をじっと見つめていた。
「知る必要があるな……あいつの大斧とやらを」
……………………
………………
…………
……
「ンで、お前ら一体今までどこに雲隠れしてたんだ?」
エッザール達がラッシュのギルドである家に戻った時、陽はすでに沈んでいた。
「あ、いや、ナウヴェルさんが寝泊まりできるサイズの家をずっと探しに……」
「ラッシュ、お前の斧を見せてもらおうか」
エッザールの言葉をさえぎり、ナウヴェルはラッシュの元へと歩み出た。
その顔は、初めて会った時以上に深く険しく。
「別にかまわねーけど、また勝負でもするのか?」
「それなんだけど、ラッシュ」
今度はルースがラッシュの前へと歩み出た……が、やはりそれもナウヴェルが制した。
「真贋を見極めたいのだ」
静かな怒りにも似た空気が、この規格外の巨体の周りを包み込んでいる。
これは口答えしてはダメなタイプだな。と感じたルースがいそいそと引き下がった。
もちろん、以前からそれを感じ取っていたマティエも。
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