死闘 中編

あの馬鹿力女が来てくれたからかも知れないが、俺はここのところ戦闘中においても、かなり冷静に物事を判断できるようになった感じがする。

だからこそ……止めなければ!


馬に乗った騎士さながらの一直線に貫き通すその戦い方。良くもあり悪くもあり。一方で右手を失ったダジュレイはと言えば……まだアイツには余裕がありそうな気がする。

自分の何倍もの大きさの翼を、俺たちの前にバサっと広げた!

飛んで逃げ……るワケねーよな。つまりは!

「私に近づけるかな、お嬢ちゃん!」

「マティエ! 避けろ!」俺は急いで柱の陰に身を潜めた。


直後、奴の羽ばたきから猛烈な向かい風が俺たちを襲った。そしてあたりに散らばっている瓦礫も……マズい!

と思った瞬間、マティエは俺のいる場所まで一気に飛ばされていた。


「くっ!」

あんなもの避ける性格じゃないことなんて百も承知だ。すでに身に付けている鉄の鎧のあちこちは凹み、頭から血を流している。

「バカな戦い方するな! なにか策を考えなきゃ……!」

「私に命令するな!」と、引き留めようとした俺の手を跳ね除けた。

ダメだこりゃ。またいつもの頑固な女に戻ってるし。

つーか、こんな性格でよく騎士団長勤め上げることできたな。


「お前が奴を倒したい気持ちはわかる、だが俺はあいつを捕らえて話を聞きたいんだ! それに真正面から行ったってムダだ、ここは策をだな!」

「黙れ! お前に私の気持ちが……!」


その時、俺の前に現れた細い手が、マティエの頬を思いきりひっぱたいた。

ルースか、いや違う。


「……いい加減にしなさいよマティエ。あんたが自分を見失ってどうするの!?」

「ジー……ル!?」不意に喰らったビンタに、マティエの目が驚く……が、当の本人は今にも倒れそうなほどにふらついていた。


「悪いけどね、今のアンタよりラッシュの方がこの場をよっぽど理解してる。マトモに行ったって無理! むしろ奴の気を逸らし……ぐっ!」

ジールが左の脇腹を抑えた。……息も荒い。

「さっきの変な圧力で、ちょっと」ああ、全然大丈夫じゃなかった。


「奴の周りに建ってる柱……全部に糸を張っておいたの。特注の鋭くて細いやつ。あいつの身体を切り刻むことはできないにしても、そこかしこで足止めするくらいはできるはず。だから……」

ジールは力なくずるずると倒れ込む……「それを利用して、どうにか奴を倒して」

すげえ大雑把すぎるアイデアだが、これが精一杯のやり方に違いない。

しかし、足止め……か。いや、これは上手く使えば!


「マティエ、俺が前に出る。奴と話す時間をくれ」


つまり作戦はこうだ。

ダジュレイは俺を傷つけることができない。ならば先に俺が行けば、奴も仕掛けることができないはずだ。それにさっき奴が言った黒衣と親方のことも気にかかるし……それだけ聞き出せればあとはもういい。背後からマティエ、そして正面から俺が。ジールの張った糸に誘い込んで、動けなくなったところを仕留めれば!

……まあ、成功するなんてあまり考えてないんだけどな。


その提案に、マティエも渋々同意してくれた。どうやら落ち着いてくれたようだし。つーかほんと手間のかかる女だ。

彼女をこっそり裏へと回らせて、俺はあえてダジュレイの正面へと歩み出た。

「あ、そうだラッシュ」ふと俺の後ろ髪をジールが引っ張ると、そのまま、あいつは……


俺の鼻の頭に、軽くキスをした。


「な……!?」

「頑張ってね、あんただけが頼りだから」


いや、だからっていきなりキスすることねーじゃねーか!


「くくく、別れのキスでもしていたのか」ダジュレイの二つの口が嘲り笑う。

だがそんなことに答える暇はない!


「ダジュレイとかいったな……お前に話がある」

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