死闘 後編
「さっきの黒衣のことなんだが、詳しく教えてくれねえか?」
時間稼ぎ? いやそうじゃない。
何故親方が死んだのが俺のせいなのか、それを知りたかったからだ。
さっきからこのダジュレイって奴、聖女からチビのことからまるでありとあらゆることを隠してそうな感じがして。
そうそう、さっきの謎の部屋とかも。
できればマティエにまだ邪魔されたくない。だから……
俺はダジュレイの前に武器を置き、戦う意思がないことを伝えた。
「俺たちの事にすごく詳しそうな感じしたからな。俺も知りたいんだ。自分の生まれのこととか」
最初は怪訝そうな目玉をたくさん俺に向けていたが、俺から仕掛けはしない事が分かるやいなや、巨大な翼をたたんでくれた。
「黒衣の者よ、おぬし……生まれはどこじゃ?」
「知らん」
「両親のことを教えてもらえるか?」
「知らん」
「…………」
え、なんかマズかったか? ダジュレイが呆れた顔してるし。
「え、っと……つまりおぬし、自身が黒衣であることもまったく知らなかった……と?」
「ああ、だから一から教えてもらいたかったんだ」
ふん……これは深刻な問題だな、と。残された左手で頭をぽりぽり掻いている。
「弱ったの……全てを知らぬとは。大誤算だった」
そして「お主とは」と奴は最後に付け加えた。
「もっと早く逢えれば、いろいろ話せたのにな」
「うぉぉぉぉぉお!」
静寂を破ったのはマティエ。奴の背後にある柱の上から、そのまま頭へと一気に飛びかかっていった。
「な、しまっ……!」彼女を振りほどこうと暴れた。
大樹の根のように何本にも枝分かれした奇妙な尻尾を振りまわし、そしてまた翼を……
が、全てはジールが張り巡らせた細い糸に引っかかり、絡みつき……
「な、なんだこれは! 身体が……!」
「覚悟ッッ!!」
マティエの槍はそのままダジュレイの脳天を一気に貫いた。
「ラッシュ! トドメをさせ!」
マティエは振り落とされまいと槍に必死にしがみついているが、どうしたらいいんだ、俺は……
マティエの祖父の仇でもあり、彼女のプライドの象徴でもある角を打ち砕き完膚なきまでに叩きのめした異形のバケモノ。
そしてエセリアの母である王妃の命を奪い、あまつさえエセリアそのものの命すら間接的に奪い去ったようなもの。
だが、それらはほとんど俺の戦う怒りに値するものではない。それ以上にこのダジュレイという存在は、俺の、さらにはタージアとチビの出生のことすら全て知っているんだ。
俺の胸の中で二つの意見がぶつかり合う。
今やらなければ今度はマティエの方が危険だ。
ダジュレイを助ければ全ての秘密が分かるんだ。
……その時ふと、イーグが「ダチは裏切りたくねえ」って俺に言ってたのを思い出した。
マティエは別にダチでもなんでもねえ。だがジール、そしてルースにとっては大事な存在なんだ。
そうだ、みんな同胞なんだ……!
大斧を手に取り、俺はダジュレイへと言った。
「悪ぃ……許してくれ」
……………………
………………
……
銅色の血にまみれたダジュレイの首が、俺の足元に転がっていた。
一撃で仕留めた……。だが、それ以上にやるせなさが俺の心の中深くまで覆い尽くしている。
もう、こいつは二度と話すことはない。
「ラッシュ……礼を言う」
マティエはそう言ってはくれたが、俺は返す気にもなれなかった。
「マティエ、ラッシュ、早くここから出るんだ!」
俺たちのもとに駆けつけたルースが、焦りの表情を浮かべながら俺たちにそう言った。
「柱がたくさん倒されたからかも知れない。天井から変な音が聞こえてきてるんだ!」
……え、ちょっとそれかなりヤバくね?
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