死闘 前編
「己が使命を忘れたのかダジュレイ? それだけでも大概だが、我が父とその仲間に危害を加えること、もはや万死に値する」
また、チビが何者かに取り憑かれているかのようだ。とろんとした虚ろな目がなによりの証拠。
しかしなんでこんな……謎の圧力の中、立っていられるんだろう。
そしてチビが右手を正面に向けた途端、ボッとまた何か吹き飛ぶような音が。
「がああっああああ!」悲鳴! しかしマティエじゃない、チビの言うダジュレイという名のバケモノの声だ。
音の先は、そのダジュレイの右肘から先。
光る焦茶色の体液を吹きながら、それはぼとりと地面に落ちた。
「ダジュレイよ。貴様、よもやナシャガルの失態を忘れたわけではあるまいな」
「そ、そんな事はない! 私はコイツらとただ遊んで……」
「嘘と戯言はもうよい。或るべき場所へ帰れ!」
その瞬間、全身にのしかかっていた謎の圧力が、まるで霧散するかのように消えた。
大丈夫……身体中がみしみしと軋みを上げてはいるが、立てる!
「チビ……お前、いったい!?」
その言葉に、チビはいつもとは全く違った……何故か邪悪さすら感じる笑みを浮かべていた。
「あとは任せたよ、お父さん」
ぐらりと、まるで操り人形の糸が一斉に切れたかのように、チビはそのままばたりと崩れ落ちた。
「く……くく、どうするねケモノビト諸君。この私を見逃すか、それか、全員でなぶり殺すかね?」
焦茶色……いや、銅の色をした血が首から、そして千切れた右腕から流れている。
ヤツ自身が勝てないと言ってるのだから、これは見逃した方がいいのだろうか?
「ふざけた物言いなどするな! 貴様に答えなど……ない!」
ワグネルの槍にもたれ掛かりながら、マティエはダジュレイへと向き直す。そうだ、あいつは仇を目の前にしてるんだ……これが千載一遇のチャンスなんだ。
「マティエ、やれるか?」
「……お前がなんと言おうが関係ない。私はこいつの首を取る。命に代えてもな!」
「ああ、そうだな。何千人もの街の住民が喰われて、おまけに……」
思い出した。エセリアの母親もこいつに殺されたんだよな。そして、あいつは……つまりは、こいつの業を巡り巡ってみれば、エセリアの仇でもあるのかも知れない。
「お前を助ける気なんて全くねーからな」
「ああ、私もだ」
その言葉に、何故か面白さが込み上げてきやがった。
そして同様に、あの女の口の端にもちらっと笑みが浮かんでいた。
ジールに援護を……と振り向くとあいつはすでにいなかった。当然の事かも知れないが、ジールが先に逃げるワケがない。
ルースは……うん。あいつの身体に負担はかけたくはない。チビとタージアのことを見といてくれれば!
呼吸を整え、ようやく身体が回復したマティエが、怒りの言葉をダジュレイへと叩きつける。
「パデイラの異形の者よ! 我が祖父、そしてリオネング同志の積年の恨み。今こそ思い知るがいい!」
マティエの蹄が地面を蹴り、ダジュレイへと飛びかかった。
さて、俺はいったいどうすりゃあいいんだか……?
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