人智を超えた何か
いきなりだった、部屋の床が消えたんだ。つまり……
慌ててチビをつかんで落ちた先。そこは神殿の真ん中だった。
危ねえ……ちょっとでもズレてたら、建っている塔にお尻貫かれてたかも。
「うえっ! なんでいきなり!?」
「ラッシュ、今まで……えっ?」驚くルースたち。
んでもってチビはというと……うん大丈夫だ。しっかり目を見開いて俺の身体をつかんでる。
いやそれよりまず、たった今体験した事をだな。
壁の文字が流れる謎の小部屋に閉じ込められたこと、行方不明だったチビが何者かに取り憑かれていたこと。まあとにかく分からねえことだらけだ。
半信半疑だったルース達だが……俺が何もない場所から突然落ちてきたんだ、理解してくれるだろ。
「つまりは、この神殿にはまだ謎が残されている……ワケだね。しかしなぜチビとラッシュだけが入れたのか……」
問題となったさっきの場所で、ルース達は頭を抱えていた。
「うちらがやっても全然ダメ……か。ラッシュとチビにしか反応しないってこと……まさか?」
ジールが周りの壁やら床やらコツコツ叩いて調べてみても、空洞の音すら聞こえない。なんだったんだあれは。
「やっぱり僕が思っていたとおりだったか……」疲れたのか、ルースが瓦礫にへたり込んで、そうつぶやいた。
「先ほどマティエが話した、我々とは違う文明の人……それがチビちゃんを選んだってことでしょうかね。身体を借りて」
「でも、その相手がラッシュだったのが誤算だった……ってことね」ジールお前もか。
「だけどそいつ、俺のことを知ってるみたいな口ぶりだったぞ、黒衣のケモノビトって言ってたし」
その聞き慣れぬ言葉に、ルースの耳がピクッと動いた。
「ラッシュのことを、黒衣と呼んだのですか!?」
ああ、けどそれが一体名の意味なのか俺にはてんでさっぱりだ。まあ若干俺の毛並みが黒っぽいこと。それくらいしか言われる筋合いはないのにな。
となると……と、ルースは軽く咳払いし、確信に満ちた声で俺に話した。
「ここに二人を連れてきて正解だったのかも知れない。大した物的証拠は得られなかったけどね、けどこの場所にはそれ以上の成果があったってことです!」
「つまり、俺とチビになにか秘密が……?」
「ええ、二人はこの地……いや、我々の知らない文明となにか関係が……!」
突然、ルースの口が止まった。
まるで何かヤバいものを見つけたみたいな、けど見つめていたのは俺じゃない。その背後に何かいるみたいな。
同様にマティエも。驚き、いや畏れにも似た、カッと見開いた目で、俺の背後を見ている。
「ラッシュ、う、後ろ……」
ジールの震える言葉に、恐る恐るゆっくりと振り向いた。
え……
そこには、今まで見たことのない姿かたちをした、巨大な生き物が立っていた。
ウソだろ。このでかい地下神殿の天井にまで届くほどの巨大な身体だっていうのに、足音も地響きも立てずに、いつのまにか気づかれずに来たっていうのか!?
さらには、そいつの右手にはタージアがしっかりと握られている。
「に、逃げ……て、みんな」
まるでどこかの彫像のように、その異形のデカブツはピクリとも動かない。
ただタージアの振り絞った声だけが、神殿に静かに響いていた。
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