生きたい

俺は……そんな弱気なルースは見たくない。

もっとぶん殴りたくなるほどの軽口で俺に嫌味を言って、アホなくらい難しい用語を並べ立てて俺をイライラさせて、でもって最後に「ラッシュさんってほんと頭悪いですね」ってなにから何までキザったらしく振舞っているルースこそが俺のルースなんだ。

余計な一言でジールを怒らせて、でもって顔面殴られて鼻血を吹いてても笑ってごめんって言ってるルースこそが俺たちのルースなんだ。


今のルースなんて全然ルースじゃねえ!


「……俺にも、手伝えることはあるか?」

「なに……を?」

「決まってンだろ、お前を一日でも、一年でも長く生き延びさせる方法だ。薬とか……なんか気味の悪い文献で見たって言ってた魔法とかいうやつとか。きっとあるだろそういうの。俺も手伝ってやる、どんな危険な場所にある薬草だって採ってきてやる。お前のためなら!」

「ラッシュ……」

「なんだっていいから手掛かりでも教えろ、いいか、仲間だからとか友達だからとか、そういう気持ちで俺は言ってるんじゃねえ。大事な存在だ! なんだったら俺の一部って言っても構わねえ。だから簡単にあきらめるな、いつもの……」

俺もまたこみ上げる意識を押さえ、奴にとどめを刺した。

「ぶっ殺したくなるルースでいてくれ……!」


「……ぷっ」なにを思ったか突然ルースは吹き出した。寝ている誰にも悟られないように声を殺して笑いやがった。

「お、おかしかった……のか?」

だがそれに応えずずっとあいつは笑い続けたまま。おまけに涙まで流して。

「お前なぁ……泣くほどのモンか?」


「ラッシュ……僕、いま……初めて死にたくないって思いました」

あいつは笑いながら泣いて、そして今度は涙で顔がぐしゃぐしゃになっていることに気が付いた。

「心の底では……ずっと思ってたんです、いつでも死んでいいや、って。でも、でも……」

そう、タージアも言ってたっけ。不安へとつながる言葉は口にしたくないって。

「今ラッシュと話してはっきり分かったんです……死にたくない、もっと、もっと生きたい……!」


そして俺も、あの時のエセリアを思い出していた。あいつもネネルと会うまでは少しでも生き続けたいって思っていたのだろうか。でなきゃあそこまで、死を直前にしてまでなおかつ毅然とした振る舞いを俺に見せることなんてできないはず。

誰だって自分の死が目に見えて分かれば気弱になる。だけどそのギリギリから何か光を見つけ出すことだってきっとできるはずだ。俺はそのちょっぴりの可能性を信じたい。そして生きていたい。


「ラッシュ……僕は、みんなと生きたい……!」

気が付けば鼻水がすっげ垂れている、やべえぞオイ。


だけどこんなにまで感情を出し切ったルースに、俺は少し安心感を抱いたことも確かだ。

ああ分かるさ、もうこれ以上大切な仲間を失いたくはねえ。

お前のためなら、俺の命をどんなに削ったって構わない。


そうだ、俺だって絶対にダチは裏切りたくねえ。

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