チビの秘密……?

ってことで一人加えて6人で馬車に揺られることとなったワケだが……なんかやっぱり居心地が悪い。


そう、俺がだ。


マティエとルースは仲良く手綱を取ってるし、相変わらずチビはマティエにべったり。

そしてタージアはジールにべったりだし……そう、俺一人だけなんかのけ者状態にされている。

別にこういうのは昔っから慣れているんだけど、なんかチビを取られたのがシャクに障るっていうか、悔しいっていうか。

ヤケになって側にあった硬いパンを口いっぱいに頬張る。


「家と同じだと思わないで。家と違って食料が無限じゃないんだし」と、向かいに座っているジールのきつい一言が飛んでくる。

こういう時、馬を操ることができれば最高なんだけどな……なんて思ってルースたちを見ていると、なんか……チビを見るマティエの顔がいつもとは違うことに気が付いた。なんか顔をじろじろと、まるで観察でもしているようだ。


「ラッシュ、ちょっと話が」そう不思議に思っていた時だった。

「今まで薄暗いとこでしか見ていなかったんで分からなかったんだが……なんか変わってないか、この子」

マティエの奴、いきなりなにを言い出すんだ……チビがジールみたいに瞳が針みたいに細長いとか言い出すんじゃねえだろうな。

幌を開けて外へ出てみると、日差しがいい感じに俺たちに向いていて、かなり暖かい。


……え。


「分かるか、チビの目と髪の色」

陽の下で抱き上げる。何も知らないチビは俺に抱えられてきゃっきゃと喜んではいるが……

全然わからなかった、ずっと俺とつかず離れずの毎日を送っていたのに!

今までちょっと淡めの黒だと思っていたチビの髪の色。それが日差しの下にさらされると、まるで宝石のような……深く、かつまばゆい緑色にきらきらと輝いていた。

同様に、瞳の色もだ。

髪の毛と同じく、陽に照らされ、エメラルドグリーンに変わっている。

「知らなかった……お前こんなにきれいな髪してたんだ」思わず俺はチビに感嘆してしまった。

「いや、そうじゃないんだラッシュ。君を呼んだのは、チビちゃんの髪の色が変わるとかそういう意味じゃなくって」

じゃあ一体? とマティエの隣にいたルースに聞き返した。


「僕の調べた限りでは……緑色の髪を持つ人間の種族はこの地には存在しない」


あいつの言葉に心臓が止まった。

そういやそうかも知れない……俺らの知りうる限り、人間ってのは総じて黒とか茶とか、あとシルバーやグレーの髪の色しかなかった。

じゃあ、チビはいったい……!?

「おとうたん、どしたの?」

いやなんでもない、とまた俺は小さな身体をぎゅっと抱きしめた。

「恐らくはチビちゃんの成長に伴って、本来の髪の色がだんだん露わになってきたのかなと……」

ルースの深刻な言葉を尻目に、俺はチビの瞳を見つめた。

……やっぱり人間とも、俺たちとも違う。

髪の色以上にキラキラと深い。見続けてるうちになんか、底なし沼みたいに、引き込まれそうな……


「(そうだ……ネネルもチビを最初に見たとき驚いてたっけ。となるとやっぱりこいつには何か……)」

「……これからは注意した方がいいかも知れない。なんせこんなきれいな色だ、狙われる可能性もあるしな」確かにマティエの言う通りだ……って、なぜ俺からチビを奪い返すんだ!


「まてぃえすき!」

触れたことはない。だがマティエの胸って大きいし柔らかそうなんだよな。まあチビが好きになるのも無理はないか。


「念のため、今後は私とルースがこの子を預か「やめろ」」

速攻で断った。マティエの胸が好きだとはいえあくまでチビは俺の子だしな。


「心外だなラッシュ。私はこの子が他の人間の危険に晒されるかもと思って預かろうと申し出たんだ。第一お前はまともに育てているのか? しかもきちんとした名前すら持っていないじゃないか。そんな奴に子を育てる資格なんてない!」

「はァ? お前みてーな頭の中まで岩が詰まった奴に言われたかぁねえ! そっちこそ子育ての経験はあンのか? 一緒に遊んだことあるか? 寝たことあるか? 風邪ひいたら付きっきりで看病できるのか?」


ぐぬぬとマティエが唸る。確かにマティエがそういう優しいことを言ってくれるのはありがたいけど……な。でもそれ以上のお節介はもうゴメンだ。


「あ、あのさ……ここで口論はよしてくれるかな、馬が驚いちゃって……」

と、ルースが横から割り込んできたから一発殴って黙らせた。


「貴様ァ!!!」


※マティエと大ゲンカになり、一旦お休み。

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