波乱の旅立ち

さて……と。

俺はいつもと変わらない装備のまま。ジジイの生み出してくれた最高の切れ味を誇る大斧も変わらぬ白い輝きを放ってるし、朝メシも全部平らげたしで準備万全だ。

もちろん親方の墓に「行ってくるぜ」と。

そう、姫様にも……だ。俺もいつまでもしょげてちゃいけないしな。


で……問題は面子なんだが。

「男が俺とルースだけっていったいどーゆーこった」

「仕方ないよ、マティエはともかく、タージアも連れて行きたいし、それにタージアはジールがいないと行かないって言うしで」


戦いにいくワケじゃないとは分かっていつつも、なんかこの女が多い構成にはいまいち納得がいかないんだよな……いや、女性が戦力にならないとかではなくて、こう、居心地が……


釈然としない気持ちを抱えたまま、今回のためにルースたちが特別にあつらえた大型の馬車へと赴く……と、前の方ではルースがマティエとこそこそ会話してた。


「……ラッシュは私達だけじゃ駄目だとでも?」

「ううん、あいつはただ単に女性に免疫がないだけさ」


殴りたい気持ちをぐっと心の底で抑えつける。これがルースだけなら頭の形が変わるまで殴ってたところだ。


……………………

………………

…………

話は昨日の夜にさかのぼる。

もはや会議室と化したいつもの食堂、いちばん大きな丸テーブルを中心に、ルースは今回の目的地……パデイラの地図を広げ、俺たちに説明をした。


「元はここと同じくらい人口の多かった街なんだけどね、そこへオコニドが目をつけて攻めてきて、風前の灯火かと思われてた……だけど」

「その翌日、捕らえられた街の人間はおろか、オコニドの連中まで……一人もいなくなっていた。これが当時の記録だ」


マティエの膝を枕にしてチビがいい気持ちで眠っている。なんか最近俺よりかあいつの方に懐いてるんだよな。やっぱり人を見るのか……ちょっと恨めしく感じてきた。


「つまり、みーんな例のバケモノが食べちゃった、ってワケ?」

「ああ、恐らくはジールの言うとおり。だがその説が正しいのかをきちんと調べてみたいんだ、何故一人もパデイラから逃げ出さなかったのか。さらにはどうやってオコニドはあのバケモノを召喚し……」

「ちょっと待った」なんかイマイチ腑に落ちない点があるんだよな。

バケモノのことだが、それってほんとにオコニドが呼び出したのか?

どうやって呼び出したか、ではなく、誰がそいつを呼び出したか。をまず調べてみる必要があるんじゃないのかな。と俺はマティエに逆質問。


「ふむ……そう言われてみるとそうかも、な」

マティエのやつ、ちょっと驚いた顔で俺のことを見てた。俺がこんなこと話したのがそんなに珍しかったのかな。

「ラッシュ様の質問に同感です。ここはまず、悪いのはオコニドという先入観を払拭して調べてみることが大前提と言えるでしょう。そのためには例の地下神殿をきちんと見てみないことには」

「そうだね……タージアとラッシュ、二人の言う通りだ。ちょっとプラン変更するか。基本的にやることは変わらないけど」


そういうことだ。最初は同行する予定のなかったタージアも結局のところ着いてくることとなった。でも本当のところは……といえば、ジールが行ってしまうこと、一人じゃ心細すぎるんだと。

そう、あれからまだチビに触れることすら克服できてなかったし。


つまりは面子は五人。エッザールとイーグがいれば心強かったんだが、イーグの方は今や本業が大忙し(俺にバイトしねえかと誘いもきたし)だし、エッザールは帰省中。まあこれに関してはしょうがないかなと。


いや、それよりもまずはチビの方だ。

トガリがいるじゃないかって? 確かにそれもアリだが、あいつはあいつで本業の料理の方が忙しくなってきている。イーグと同じだ。これも戦争が終わってだんだんと平和になってきたって意味なのだろうか、偶然立ち寄ったマシューネ軍の一人が、バイト先の食堂でトガリの特製の煮込みを食ったとたん「故郷の味と同じだ!」っていたく感動してしまい、以来口コミでマシューネの連中はともかく、他の街やら隣国からもトガリの料理を味わおうと連日大行列。さすがのトガリもここ最近はちょっと疲弊気味だ。


本当なら俺たちが店へ手伝いに行けばいいのかもしれないが、例のマティエの騒動の一件で俺もマティエもジールも、そしてラザトも現在は出禁状態だ……

いや、ジールは飲みすぎが原因なんだが、それはどうでもいいとして。


「チビも一緒に連れてく?」考えあぐねている最中、ジールがぽつんと口にした。

いいのかよそれ、まあ別に今回は敵地に行くわけじゃないにしても、子供を連れて行くのはかなり危険じゃないか?

「それでいいかも知れない、正直ラザトは親代わりにはなれないしな」と、マティエの辛辣な一撃。

「え、ええ……ジールお姉さまがそういうのであれば」だろうな、タージアは思いきり不満なのはわかる。

兄貴分のフィンもいないし、今回に関してはしょうがないか。トガリに一任した例の隠し金も絶対に分からないところにしまってあるし、口酸っぱく言うがラザトのやつはあまり信用おけない奴だからな。


それに、今のチビを見れば一目瞭然だろう。マティエにとても懐いているしな。

このまま二人が無事結婚できたのなら、養子として預け……いやいやそんなバカなこと考えるな俺のバカ!


というわけで仲間が一人増えることとなった。到底戦力にはならないがな……まあチビはきちんと俺たちの言うことは聞いてくれるし、なにがあっても一人にさせることは絶対にさせないつもりだ。それはジールも承知しているし。

……………………

………………

…………

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