ふたり 前編

冗談じゃねえ! この女に2度も殺されてたまるかってんだ!

相手がうなされていようが関係ない! ってなワケで俺も必死に抵抗した……んだが。


押さえつけられていたはずの背後の壁が、突然ボコォと大きな音を立てて崩れ始めた。


え、ちょっと、これ、落ち……⁉︎

「ラッシュ!」

「ラッシュさん⁉︎」


俺はマティエに首を絞められたまま、その状態で真っ逆さまに……落ちた。

……………………

…………

……

鼻先にぴちゃっと冷たい水が滴り落ちている。


……そうだ、あの女と一緒に穴へ落ちたんだっけか。

だが、見上げても陽の光は全く差してこない。身体中もズキズキ痛むし、こりゃあ相当深い縦穴に落っこちたっぽいな。


「う……ん」その声に慌てて飛び退いた。

やべえ、マティエの顔を思いきり踏んづけてた!


しかし、またこいつに襲われる可能性もあるしな……と思い、こいつと充分に距離を取って、爪先でちょんちょんと小突いて起こしてみることに。


「こ……ここは?」よし。今度は普通に目が覚めたっぽいな。


「よーやく気がついたか。騎士団長さん?」

「お、お前……うっ!」痛みにふらつくマティエを介抱しようとしたが、触るなと一蹴された……

これが騎士か。ほんとプライドの塊だな。


けどどうもマティエのやつ、刺されて以降の記憶が全くなかったみたいだ……てなコトで、イーグ達が助けに来ることを期待しつつ、俺はこの頑固女に今までの経緯を説明することにした。


「そうか……同行した部下のシャルゼが、あいつが裏切ったんだ」

「それ何度もお前のうわ言で聞いたっつーの。裏でマシャンヴァルと取り引きしてたんだろ?」その言葉に弱々しくうなづいた。


「誤算だった……マシャンヴァルに喰われた奴らは幾度か見たことはあったが、よもや取り引きをした者までいようとは……」

「でもまた、一体なんの為にだ?」

「地位、名誉、そしてカネ……弱い意志を持つ連中ほど、それらを簡単に欲したがる」

なるほど。俺にはとんと無縁なものばかりだわ。


「わがリオネングとマシューネの貴重な戦力を労せずして削り取ることが奴らの目的……おそらくはシャルゼ一人でまたリオネングへと戻っているだろう。自分だけ生き残れたとうそぶいて。だから一刻も早くあいつを……!」


とはいっても、ここはかなりの地下だということは分かる……が、どうやれば戻れるか、まずはそれが問題だ。


……ふとその時、俺の頬に冷たい風が触れた。

これは、もしかして……!!


散らばっていた武器とマティエを抱え、俺たちは奥の方へと足を進めた。

足元の感触がかなり固い。これは過去に誰かが作ったトンネルかもしれないな。となれば地上に出られる!


時おり吹く風を目安に暗闇を進むと、耳元でマティエが俺の名を呼んでいた。

「あの時は、済まなかった……」

「ああ、酒場で俺を殺そうとしてたときな」

「酔っていたとはいえ、いっときの感情を抑えることができなかった……」

「けっ、俺の親方も言ってたぜ、酒で自制が利かなくなる奴らなんて、所詮その程度のものだってな」

「まさにその通りだ……私は騎士失格だ……」


こんな時に言われても……なあ。つーかこの女が激怒する経緯をまだきっちりコイツの口からは聞いてないんだよな。

そこも含めて「よけりゃ教えてくれねえか、その……お前が怒らない範囲でいいからよ」


マティエはとつとつと話し始めた。

彼女の、戦士としての証である角を失った経緯を……

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