残された者たち

途中、何匹か立ちふさがってくる奴を斬り伏せながら、ようやくマティエたちがいる場所までたどりつけたはいいのだ…が。

……いない。足元に散らばっているのは、さっきまで俺らの一員だった人間の傭兵の骸に、その倍の数の人獣の死体だけ。

マティエもイーグも見当たらない……いったいどこ行っちまったんだ!?


気持ち悪いほどに当たりは静まりかえっている……もしや、人獣にさらわれた!?

「うっ!」突然、背後から俺の口をふさいだ。

「(大丈夫、俺だよ、イーグだよ)」耳元であいつが、イーグがそうささやく。

つまりは無事ってことか……でも、なんで!?

俺とエッザールはイーグに引っ張られるように、近くにそびえ立つひときわ大きな木のもとへと向かった。

大樹の根本は巨大な空洞になっている。俺ら数人くらい入っても余裕なほどの大きさだ。

身をかがめて中へはいると……コケだろうか、壁の至るところからほのかな緑色の光を発している。

そこにいたのはイーグ。そして苦しそうに息をしているマティエだった。

「ケガしているのか?」

「ああ、胸の鎧外すの手伝って」

イーグに言われるがままに、俺はマティエの胸の鎧を……つーか外れねえし。なもんで強引に留め金部分の革ベルトをちぎり取ってしまった。

鎧をはぎ取った瞬間、むせ返るような血の匂いが俺の鼻を襲った。

「大丈夫、出血量は多いけれど傷はそれほど深くはない」こういうこともあろうかと、エッザールのやつは薬草やら包帯やらを常に持っているんだとか。用意周到だな。

マティエの身体をよく見ると、右の脇腹が血でべっとりと汚れている。

おそらく短剣で鎧の隙間から刺されたのだろう……だが彼女が下に着込んでいた鎖帷子のおかげだろうか、確かに思っていたほど傷は深くなかった。

そんな中、痛みに目が覚めたのだろうか、マティエがうわ言のようになにかを口にしだした。

「騙された……あいつ、シャルゼの奴が……」

シャルゼ……というと、戦闘にいた騎士のことだったっけか。マティエと組んでいたな、確か。

「しっかりしろ、お前の仲間だろシャルゼって、そいつがどうしたんだ!?」

「マ……ヴァルと結託して……」

「結託!? それって一体……?」

突然マティエの目がカッと大きく見開かれたと思うと、やつは俺の胸ぐらを掴み、そのまま首を締め上げてきた。

「おのれ、貴様……なぜ騎士道に反した行いを!?」


「ちょ、マティエそいつ人違い!」

「ラッシュさん!」


ちょっと待てオイ……俺はシャルなんとかじゃないっつーの!

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