第8話 焼き鳥が食べたい

 大学の授業はなんていうか思っていたのとは違った。

 一年生の頃までは、専門の授業もあるけれど、文系の学部との共通科目もあるからそれぞれの科目で専門的な言葉を使っていても解説がついて比較的分かりやすかった。


 なのに、この工学部専門キャンパスと来たら。

 専門用語は分かって当たり前。

 分からないことがあれば自分で調べるが基本。


 うーん。大学っぽいけれど、なんか急にしんどい。

 去年までの、『妖怪学』やら『映画における建築と文化』、『心理学』みたいな教養科目とはえらい違いだ。

 いや、もちろん変な授業ばかりとってきたわけじゃなくて、楽だったもとい楽しかった授業の一例だ。


 でも、水木しげるの本を参照しながら文化圏による妖怪の背景を学んだり。昔、ヒットした映画を見せられて主人公の住む家の間取りや生活そして、建築様式の名前を学んだり。心理学といいながらも、教授の外国でのフィールドワークでの話を聞いたり。

 大学の勉強ってなんて自由なんだって思っていたのに。


 今日見たのは、専門用語と数式だらけの教科書のリストだった。

 しかも、結構高い。

 早くバイト見つけなければ。


 帰りに節約のためスーパーによる。

 醤油も切らしていたし。

 流石にあの教科書代では毎日外食は厳しい。

 スーパーで適当に適当に食べられそうなものを買う。

 ちょっとだけ本キャンパスの近くのスーパーより安い気がした。


 初めていくスーパーはわくわくして、いつもは必要最小限の売り場しかいかないのだが、つい今日は端から端までみてしまった。

 おかげで結構時間がかかった。いつもなら買わない可愛らしいパッケージのものが自分の買い物かごに入っているのも少し照れくさかった。


 外にでると、店の前には焼き鳥を移動販売するトラックがとまっていた。

 朱色の提灯を妖しく灯しながら、たれの焦げるいい匂いがただよっていた。

 ゴクンッ

 と生唾を飲み込む。

 焼き鳥の匂いはすごく食欲をそそられた。


 一本だけなら……と思って値段をみると、ねぎまが一本百五十円。数歩もどったスーパーの総菜コーナーでは焼き鳥一本九十八円で売られているというのに。

 さすがに、貧乏学生にはこの値段の差は大きく、俺は下を向いて足早にトラックの横を通り過ぎた。

 いつか、俺にあのトラックの焼き鳥を買える日は来るのだろうか。


 俺はエコバックを持ってきてなかったので、スーパーで買った物がぱんぱんにつまった学校ようのショルダーバッグを肩にくい込ませながら自転車を漕いだ。


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