◇4 プレイ!

 しっくりこない。ルール説明をした二人の顔はやはりそういった感情を表していた。

 サウィの青い目とプラムの赤い目が、微妙といった視線を俺に向けてくる。


 だよね!? あったとしてもトランプくらいしかないであろう世界に、いきなり別のカード作っちゃったからね!?


 そもそも下級市民にはカードゲームの概念が無いのね!! 基盤となる概念を知らないからよく呑み込めないのね!?


「アタシ、よくわからない……そのカードって楽しいの?」


「むむむ。確かに引きには運が絡むですが、戦略性があるかというと? 運の要素の方が強くて……正直、模擬駒もぎこまの方がきっちりと勝負をつけられるのです」


 兵隊の駒を使って敵陣に攻め込むゲーム、模擬駒もぎこま

 確かに今のカード群じゃそこまで戦略性は及びません。はい、おっしゃる通りです……。


 運と戦略が絡むゲームとしてのカードゲーム、第一弾は興味が引かれず失敗に終わった。

 適当に考えすぎたか。これは神じゃなくて俺が悪いな。でも神は〇ね。フ〇ック・ユー。


 子供達が興味を持たないなら、カードゲームを作って普及させるなんて無理かな?

 そう思った時、サウィがプラムを挑発したのだった。 


「まっ、アタシはプラムなんかに負けないけどね。こんくらいのゲームなら」


「ほぅ? 私がサウィに戦略性のあるゲームで負けるというのです?」


 ニヤニヤ笑うサウィを、プラムは獲物を見つけた時の猫のような細い目でぎろりとにらむ。

 いや、大人の俺がドン引きするほど怖いんだけどその表情と目……。元奴隷といえどさすが魔族ということはあるな。ゾクゾクと怖いです、はい。


 それでもサウィはけろりと「うん、アタシが勝つもんね」と返した。


「じゃあ勝負なのです! 十枚のデッキでまずは三回勝負! そのにやけ顔をすぐに泣き顔にしてやるのです!」


「やったらぁあ! 運と戦術で強いのは、やっぱりアタシなんだあぁ!!」


「他の人の迷惑になるから、やるならもう少し声を押さえて頼むぞ……」


 子供は風の子、元気な子だっけか? 風は風でも二人は嵐に近いと思う。そのエネルギーで俺は吹き飛ばされそうである。


 互いに十枚の厚いデッキを置き、上から三枚引く。プラムはその手札を見て表情を崩さなかったが、サウィはピキッと表情を凍らせた。


 横からサウィの手札を覗いてみると……うわっ、これはひでぇ。戦士・盗賊・盗賊の微妙な手札。


 おさらいだが、勇者・魔法使い・戦士・射手・盗賊の順に強い。勇者が1000のパワーを持ち、魔法使いが800、戦士が600と200区切りでパワーを持つ。

 つまりだが、サウィの手札三枚の内二枚は、死に札なのである。


 プラムの手札を覗くと、勇者・魔法使い・射手というバランスの良い手札。この手なら勇者を出してまず一勝。サウィの引きが悪ければ魔法使いを次に出してもう一勝。プラムの勝ちが決定する。


 なお、勇者対勇者、魔法使い対魔法使い等の同じパワーを持つカード同士の対決になった場合、引き分けとなる。

 あれ、これサウィちゃん詰んだ? 2回連続で勇者を引かなければ勝利はないようなものである。


「ふっ」


「ぐぬっ!」


 サウィの凍った表情に気づいたプラムがクスリと笑う。手札に集中していたサウィはその笑いを聞き、手をぷるぷると震わせた。


 わかる、わかるぞ。手札事故を起こした時って辛いよなぁ。その辛さを共有するんだ、そしてその辛さを抜け出すドローの快感を感じるんだ。

 一緒に沼に落ちよう。いや、引きずり込んでやる。


「さぁ、一戦目なのです」


「くっ!」


 お互いにカードを1枚選んで置き、せーのの合図で表へと返す。やっぱりこのカードはやめた、は無しだ。


「勇者!」


「戦士……! 一勝取られたぁ!」


 お互いに使い終わったカードは取り除き、デッキから一枚引く。サウィが引いたのは、なんと勇者。

 ぱあっとサウィの表情が明るくなり、プラムがむむむと警戒を始める。サウィちゃん顔と態度に出過ぎだろ。戦略ゲームが弱い理由わかったわ。


「じゃあ二戦目だよ!」


「ふんっ。オープン」


「じゃーん! 勇者!」


「魔法使いなのです。二戦目は負け」


 二戦目で負けるのはわかっていたのだろう。プラムはさっさと自分が出したカードをわきに置く。そしてすぐさまカードを引いた。


「きったっ!」


「うっ」


 二枚目の勇者を引いたことが嬉しすぎたのか、サウィは喜びをカードを出す前に出した。対してプラムは勇者以上のカードを引けなかったのだろう。負けを悟ったようだ。


 そして三枚目を見せ合い、勇者対戦士という結果に終わった。


 二勝一敗でサウィの勝ち。

 プラムが引いたのは戦士・射手・戦士となったようだ。残りの勇者はデッキの奥底ボトムに眠っていた。


「なぜ勇者が一番下にいるのです!」


 わかる、わかるぞ。キーカードがデッキの一番下にあるとわかった時、辛いよなぁ。

 でも引いた時の快感は大きいんだ。沼に落ちよう。


「へっへーん、だから言ったでしょ? アタシの方が総合的に強いもんねー」


「も、もう一回なのです! 次は4回勝負!」


「何回やっても同じだもーん」


 うーん、運が絡むならゲーム運の強いサウィが圧勝するだろうなぁと気づいておくべきだった。

 しかし、なんとここからプラムの怒涛の反撃が始まるのであった。


「だーっ! また負けた! なんで!? 引きはアタシの方が強いと思うのに!」


 んー? 不思議だなぁ。サウィの方が引き運は良いはずなんだが、プラムの方が勝ちを重ねてきた。

 どうなっているんだ? まさかイカサマしているわけじゃないだろうし。


「なぁサウィ、プラム。もう一度やってみてくれないか?」


 もう一度サウィとプラムにカードゲームをやってもらって、その様子を横から観察することで勝利の理由がはっきりとした。


 なるほどプラム。さては君、カードを引いた時と選ぼうとする時のサウィの表情を読んでいるな?


 強いカードをサウィが出しそうなとき、弱いカードをわざと出して勇者や魔法使いを温存している。


 さらに強いカード同士での引き分けを防いでいるのだ。逆に手札が悪い時も引き分けに持ち込んでいる。なかなか強かな子である。


 この後もサウィはプラムに挑み続けたのだが、プラムの勝率6割という結果で終わるのだった。

 なお、主な敗因は手札事故。うわプラムちゃん強くない?


 そして俺はトレーディングカードゲームの下地を作れそうなことを実感し、心の中でガッツポーズを決めるのだった。


 異世界でTCGができるのもそう遠くはなさそうな感じがした。

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