◇3 絵師のゴミとカードゲーム完成
その小さな家はごみ回収の仕事のルート途中にある。絵を描いたキャンバスや紙を毎日ゴミとして出していく家だ。
そして、いつもうつむいてどんよりとした暗い雰囲気を纏っている、女性の獣人の住む家である。
いったいどれだけ絵を描くのが好きなんだ? 毎日絵がゴミとして出される。
上手いもの、落書きみたいなもの、大きいサイズに小さいサイズ。色んな絵がゴミとなる。
そしてちょうど、手作りのカードを全て完成させた日のことだった。いつもより多めの絵をゴミとして出しに来た獣人さんと鉢合わせたのだ。
「い、いつもありがとうございます……駄作、処分してくれて……」
「これで駄作なんですか?」
「誰も買わない絵なので……」
いつもより三割増しくらい低い声にぎょっとして、俺は突然お礼を言ってきた獣人さんに簡単な質問を返すことしかできなかった。
しかし、感謝の言葉を述べるなら目くらいは合わせてほしいものだけど。
それにしても何か嫌なことがあったのだろうか。腰が曲がった婆さん並みに姿勢が悪くて、ゴミを手放した手は力なく垂れていた。今日はいつもよりとことん姿勢が悪い。
きちんと立っているのは、オオカミに似ている頭に生えた耳くらいだ。
いつもの喪服みたいな黒い服を着ているが、今日は絵の具の染みをその色で隠しきれていない。
ややぼさっとした状態の濃い青の髪は、赤や黄色の絵の具で斑点模様みたいに汚れている。おまけに、その手も同様の状態だ。
つい汚れた姿で人前に出てきてしまうくらい、身なりに気を使っていられない状態なんだろう。
次に彼女は悔しそうに服のすそをぎゅっと両手で掴み、かすれるような声で俺に絵の処分を依頼してきた。
「あの、えぅあ……ゴミの処理、お願いします……」
それだけ言い残して、青い毛並みの獣人さんは逃げ去るように家の中へ帰っていった。
「綺麗な絵なのにな」
絵の下手な自分からすれば、本当に素敵な絵だと思う。だけどこれを描いたあの獣人さんからすれば、売れない時点でゴミと化すのだろう。
でも、なんでこの絵が売れないのだろうか。それほど基礎や色塗りが酷いとみなされているのか?
はぁ、この頑張りと才能を認めない世界に彼女を住ます神様、〇ね。
俺は革製のゴミ袋へ今から本当に無価値となる絵を入れて、ゴミ収集所に行くのだった。
価値のありそうな絵をゴミとして処分させるのは、ちょっと気分が悪かった。
そしてその日の仕事は終わり、俺は教会隣の施療院へ帰った。
その時間の頃にはすっかり青い獣人さんのことは頭から抜け落ちていた。ゴミ処理はもう「やってられっか!」と叫びたくなるほど大変だし臭いのである。
明るい顔でゴミ処理の仕事やってる奴? いねーよ! 匂いを防ぐポリ袋とかの技術が無いんだもん! 生ゴミくせーんだよ! フ〇ブリーズでもリセ〇シュでもごまかせねぇぞ!
貴重な水浴びの時間は入念に石鹸をこすりつける。匂いが取れなくなったらたまったもんじゃない。
ていうか今は春と夏の境らしいからいいけど、冬どうなんの? 冬に水浴びするの? 死ぬよ?
いや、死んで他の世界に転生した方が良いかもしれないと思ってきた。でもやっぱ死ぬの怖いけどな!
そして水浴びと夕食の後。
またゲームのいざこざで騒いでいるサウィとプラムを尻目に、俺は手作りのカードをデッキとして重ねて最終チェックをしていた。いわゆるカードゲームの一人回しである。
「一枚一枚は薄いけど、重ねたら結構な厚さになるな」
カードといっても木の板に紙を張り付けたものだ。重ねるとやはり分厚い。
そして俺はこんな世界に俺を放り出した神を、逆さにした十字架に
この世界で優しかったのはお前じゃなくシスターたちだよ! フ〇ック!
それはさておき、用意したのは十枚ずつのカードである。
ルールは簡素というか、超適当に決めた。細かなルールを決めたくなるが、「これでいっか」みたいなくらいに軽い気持ちで決めた。
「TCGのルールいきなり覚えろって、無理だよな」
だって、見たことも聞いたこともないカードゲームのルールを1から覚えろとか無理だし。絶対無理。
俺ですらオリジナル要素たっぷりのカードゲームのルールを覚えろなんて言われたら、「うっ」となる。それがまだ12歳の子供ならなおさらだ。
人によっては、カードゲームのルールを覚えろなんて勉強より難しいだろう。
誰だって興味のないもの・親しみの無いものについては覚えづらいからだ。
というわけでルールは非常に簡単。
10枚のデッキから3枚カードを引き、1枚ずつカードを出し合ってそれに書かれた
これを何回か繰り返して勝敗を決めるだけ。
あとは1回
1:カードを3枚引く。
2:カードを同時に1枚出し合って勝敗を決める。
3:新たにカードを1枚引く。
4:1~3の手順を3~5回やって勝ち数の多い方が勝ち
まとめるとこれだけ。こんなレベルで良いだろう、たぶん。
カードは5種類を2枚ずつ、合計10枚。勇者・魔法使い・剣士・射手・盗賊の5種である。
そして思い浮かべた順にパワーが強い。勇者は魔法使いに勝ち、魔法使いは剣士に勝ち……といった具合だ。
種類が違うといっても、違いは書かれているパワーの数値が違うくらいだけどな。カードのテキストや効果なんてものはない。簡単で充分。
ちなみに文字と数字はシスターさんに教わった。
そしてモンスターをカードとして採用しなかったのは、教会の近くでモンスターを操る話がどうとかはマズいと思ったからだ。
下手すると「悪に身と心を落とそうとする者」だのなんだの言われて追い出されるかもしれない。
なので、モンスターを使わない人対人の模擬戦ゲームみたいにしたのである。
しかし、模擬戦と言っても戦いなので、平和と愛を望むシスターさん達にはカードゲームについては黙秘状態だ。
バレたら白い目で見られることになんのかなー、やだなー。
でもカードゲームしたいんだよこっちは! 楽しみつつ楽しませたいんだよ!
この世界の召喚前にこんなことやったら嘲笑されるだろうし、子供相手で良い機会だ。
「サウィ、プラム、ちょっとこっち来てくれ。約束通りにカードゲームを作ったぞ」
取っ組み合いが始まりかねない2人へ呼びかけ、ついに俺は自作カードゲームをプレイさせることを決める。
子供だましと笑われるとか、つまんないと放り出されるとか、そんなことありませんようにと俺は願った。
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