◇2 施療院の孤児たち。そしてカードゲーム作成

 この世界に急に放り出されて、最低限でも寝床となる場所を見つけられたのは奇跡だと思う。


 神を崇拝する教会の隣に設けられた施療院。そこが俺や、明日に迷う浮浪者を救ってくれる所。捨てる神あれば拾う神ありと言ったものだ。

 雨風しのげるって本当に素敵なんだな。


 でもこの世界に呼んだのがその神なら、この救いを含んでても俺は中指を立てるがな! 〇ね! フ〇ック!


 そして……。


「1、2、3、4、あがり!」


「むっ!?」


「へっへーん! すごろくでの運ならプラムに負けないもんね!」


「いつも先に上がってずるいのです! イカサマしてるのです!?」


「してないもーん!」


 施療院は共同部屋なので子供たちがうるせぇ。


 夕飯後に始まるのは、施療院に住む親無き子供たちの喧騒。


 大人や教会のシスターが怒れば収まるのだが、余計なエネルギーを使っていられない俺達浮浪者は怒ることすら億劫おっくうなのだ。


 いつもいつもうるさいのは、早くに親を亡くして引き取られたというサウィと、悪魔に近い魔族だと言われる奴隷だったプラム。


 2人とも12歳の少女だ。サウィが金髪のロングヘアの方で男勝りな子。プラムが紫色のショートヘアでコウモリっぽい翼を生やしている子、だったっけか。


 ちなみに奴隷とは主に魔族など人ならざる者がなるもの。

 で、教会は行く当てのない彼らを救って教育と衣食住を施し、信徒として解放するらしい。


 ザドフィウム教だとかの教えで、貧しき者・悩める者を救えだとか……宗教についてはまだよく知らない。


 なんか元素名みたいだねザドフィウムって。カリウムやカルシウムみたいな。それはそうとして神◯ね。


 で、サウィとプラムは今日も今日とて、ゲームで勝負しては喧嘩している。まったく、本当にうるさい。マジで。


「やーい、運無しー! お前なんか神様は救ってくれないもんねー!」


「能無しに言われたくないのです! 聖書のことを覚えきれない頭じゃ天国に連れていってもらえないのです!」


「誰が能無しだぁ!」


「お・ま・え・なのです!」


 いや本当にうるさいな!? うるっせぇ!?

 サウィもプラムも中指立て合ってるよ!? プラムちゃん、あんまり人と話さない引っ込み思案らしいのに!


 サウィからすればプラムは頭が良すぎて頭脳ゲームが成り立たない。チェスみたいな駒を使ったゲームや、クイズなどだ。


 しかしサウィはゲームの運がいい。プラムからすれば、いつもすごろくで先に上がられるのでつまらないのである。


 まぁ、見方からすればライバル同士というものなんだろうか。


 同じ年代で皆を引っ張るサウィが突っかかって来るので、プラムもとっさに声を荒げてしまうのだろう。


「アタシ知ってるもーん! プラムはいつも駒を勝手に動かすイカサマをしてるって!」


「なっ!?」


 どうやら頭脳プレイがイカサマ扱いされたことにプラムはカチンときたようで、青筋を立ててサウィの頬を引っ張りだした。

 自分の頬が引っ張られたと理解した瞬間、サウィもプラムの頬を引っ張り出す。


 いやだいぶ引っ張ってるな!? モチみたいに伸びてる!?


「いひゃひゃひゃひゃ!? ほのぉ!!」


「むぎっ!? みゅぎぎ!!」


 どたどたと、くんずほぐれつながらの頬の引っ張り合い。お互いに痛いのか、涙を流しながらの乱闘である。


 いやもうさすがに……うるさすぎるわぁ!!


 寝ながらぼけーっと虚空を見上げている浮浪者たちの中から俺は立ち上がり、歩み寄って2人を引きはがした。


「おいおい、さすがにケンカはやめてくれ! ゲームなんだから楽しくプレイしてくれよ」 


「だってプラムが! 舞川まいかわ!」


「だってサウィが! 創矢そうやさん!」


 互いにビシリと指差し合い、相手が悪いと二人は主張する。


「お互いに悪く言い合ったのは悪いんだからどちらも悪いぞ。あとサウィ、舞川の呼び捨てはやめてくれ」


「うっさい前川まえかわ! 何とかしろ! 運と頭、どっちもプラムで正々堂々勝てるものを用意しろ!」


舞川まいかわを止めれば良いってもんじゃねぇぞ、俺の名前じゃないじゃん」


「そんなものあるわけないのです!」


「なにを~! きっとあるはずなんだ! ハゲ山なら用意してくれるはずなんだ!」


「ハゲてねぇよ。あと山じゃねぇよ川だよ」


 運と頭で、どっちの要素でも正々堂々ねぇ。


 あれ? これ、カードゲームを作るのにいい機会じゃね?

 出来がへたっぴでもこの世界だったら誰も笑わないだろうし。下手な同人カードゲームだと思うばいいだろ。


 自分でカード作って楽しんでもらうって、密かに夢だったんだよね。


「なあサウィ、プラム。カードゲームしてみないか?」


「なにそれ?」


 2人はきょとんと顔を見合わせて首をかしげた。

 たぶんこの世界じゃあトレーディングカードゲームなんて無いし、あったとしても上流階級のたしなみだろう。


 なぜ俺が2人にカードゲームを勧めたのか?

 それは、カードゲームがその勝負の結果を運と戦術どちらにも任せるからである。


「サウィ、プラム。数日待ってくれるか?」




 次の日の早朝。俺は作業しに適当な薄い木の板とノコギリを持って外に出ていた。

 昨日の内に、ノコギリ等の道具を貸してくれないかとシスターたちに依頼していたのだ。


 というわけで、カードの基礎となる小さな板を作るため、俺は朝食と仕事をする前に資材庫の前で準備体操。我ながらよく早起きできたな。


 そして何気に、ノコギリ持つのって十数年ぶりじゃないだろうか。

 手や足を切るというヘマはしないだろうが、いざ怪我したら大変なので軍手やブーツも借りている。


 まぁ大きさはだいたいこのくらいだろうという目印の塗料をつけ、レッツ作業。

 小さなテーブルの上に板を先端がはみ出すように置き、片足で逆を押さえてギコギコ切る。


 切り終わると、コテンと地面へ板が落ちる。俺からしたら小さいかなと思うけど、子供からしたらいいサイズだろう。

 次はやすりで側面のささくれを削る。持った時に刺さったりしたら痛いからな。


 あとはカードらしき大きさとなった板に、のりで紙をくっつけて……完成!


 これをあと19回繰り返す。

 目指すは一人につき10枚の札を持つカードゲーム。俺は数日間に分けてその作業をするのだった。


 普通に紙そのままでも遊べそうなのだが、俺はカードを折ったりぺらりとしならせるのが嫌いなんだ。

 よって、数日をかけてでも完全な形となるカードを完成させた。


 うん……メンコっぽいなコレ! カードゲームというより、別の遊び方が流行りそうだぞ!

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