◇5 絵が欲しい! やっぱり絵だよ!
「射手だぁ!」
「うっ? 射手なのです!」
カードゲームを作ってから数日。新しい刺激というのは良いものなのか、サウィとプラムは今日も夕食後に俺の作ったカードゲームで遊んでいる。
よし、気に入ってもらえたようで嬉しい。
サウィは自分の顔と態度を勝負に使われていることに気づいたようで、わざと顔をしかめたり、引きが悪くても笑みを浮かべたりするなどしてプラムを翻弄している。
たった10枚のカードでの勝負だが、心理戦が始まっているのだ。
本来カードゲームで番外戦術は褒められたものじゃないと思うが、俺はみんなに楽しくプレイしてもらえればそれでいい。あれこれ指示するとつまらなくなっちゃうしな。
さて神様、俺がこの世界をそろそろ気に入り始めたって思ってる? そんなわけねぇだろ〇ね! できるなら帰りてぇわ。
いつも食事の前のお祈りの時、心の中でフ〇ックと唱えているからな。
働いた後のご飯は美味いかって? 休日でゴロゴロした後のコンビニ弁当の方がよっぽど美味いわ。
作ってもらっているシスターさんには悪いけど、やっぱり節約料理なので味が薄いしひもじい感じがする。
ほんっっっとフ〇ック・ユー。飯にありつけるだけありがたいと思え? ふざけんなマッチポンプだろうが!
で、俺は今日も仕事終わりに帰ってきて水浴びをして、次のカードゲームはどうしようか・今あるものを拡張しようか等と考えているのだ。
お金の管理とかも考えなければ……。まだ今の状態のカードゲームを売るなんて不可能である。
「ねぇねぇ
「誤解されそうな名前じゃねぇよ!
うん、やっぱり来たか。カードに絵を描いてというもの。
現在のカードは上部に勇者・魔法使いなどの種類、左下にパワーの数値が書いてあるだけの簡素なものだ。
だから、真ん中にばーんと空白がある。
最初はシスターの誰かに絵を描いてもらおうと思っていた。
だが、先日思ったとおりにシスターへ戦いの絵を描かせるのはどうかと考え、絵のことは保留になっていたのだ。
で、数日間それをほったらかしにしていた。だってさ……。
「マイマイが描いてよ!」
「人をカタツムリみたいなあだ名で呼ぶな!
「プラムと対等な奴じゃなきゃヤダ!」
「創矢さん、駒みたいなカードの特徴は描けないですか?」
「……わかった、やってみるよ」
サウィとプラムにせがまれると、断ったらうるさそうだ。他の大人組は相変わらず無気力で動けるような状態じゃないし、やっぱり俺が描くしかないのか。
しかしだな、しかし。
しょうがないので慣れない筆を手に持ち、いざ一筆入魂。あっという間に完成。
「これ、射手?」
「失礼ですが下手なのです」
「ごめんね、下手で……」
そう、俺は絵が壊滅的に下手なのだ。棒人形に弓と矢らしきものを持たせた落書き。すいませんこれで限界なんです画力は!
もちろんサウィとプラムは俺の絵柄を気に入らなかった。
こうして俺は翌朝に、カード一枚をまた一から作り直すことになるのだった。
絵を描いてくれる人いないかなぁと考えながら板にやすりをかけていく。
絵を描いてくれそうな人、俺がこの世界で知っている人……。
「あっ、いたわ。絵を描いてくれそうな人」
俺の頭にぱっと思い浮かんだのは、いつもきれいな絵を描いたキャンバスを捨てていく青の女性獣人さんだった。
あの人なら、絵を描いてくれそうじゃないか?
その日の俺は、少ない給料をもらう代わりに早く仕事を上がった。
いち早く教会の施療院に帰って水浴びと石鹸で匂いを落とし、青の獣人さんに会うためにまた出かけたのだ。
街の大通り近くではなく、少々入り組んだ場所に存在する寂れた家。そこが彼女の家だ。
毎日俺がゴミ回収に通るルートに存在するので迷うことは無かった。
それとシスター達に文字を習って、やっと地図を読めるようになってきた。言葉は通じるのって不思議だねぇ。
文字の書き方は違うようなのだ。五十音表を貰ってなんとか複雑な文字の羅列でも解読できる。
看板によれば、フォンネスト地区東14の8番地だそうな。
そして玄関プレートによれば、この家に住む青い毛並みの獣人さんは『ベルムリッド・ローゲベイル』さんというらしい。なんか男らしい名前だな。
まずは身なりをもう一度整える。匂いもしないか再確認。服は先日洗濯したので大丈夫な、はず。作業着とは違うし。
気負うな俺、ダメ元でいくんだ。失敗したって誰かに笑われるわけでもない。
小学生時代にあった、オリジナルでカード作って笑われるような事じゃないんだ。
気合を入れてリング状のドアノッカーを使ってノックする。あっ、ちょっと気合入れ過ぎて大きな音出し過ぎたかも。
そんなことを心配した瞬間、家の中からありったけの重いものをひっくり返したようなド派手な音が鳴り響いた。
「だ、大丈夫かあの人?」
思い浮かべるは、いつものうつむいた黒い服の女性。
絵を描いている時に何かトラブルでも起こったのか?
……明らかにトラブルの原因は俺である。突然の訪問だし。
その後、色んな物をはねのけたり転がしたりするような音が家の中から響き、しんと何もかもが停止した間隔。
ワンテンポ置いた後、郵便受けも兼ねた四角いのぞき窓が開かれた。
窓の奥にあるのは、奇麗なトパーズ色の黄の瞳。しかし、目が合わさった瞬間にぎょっとしてすぐに右へとそらされた。
「ど、どなた、ですか……?」
「あのぅ」
「ひっ!?」
いや「ひっ!?」ってなんだよ。まるで幽霊を見たような反応をされて、のぞき窓がバタンと閉じられた。
再び恐る恐るといった様子で開くのぞき窓。また目がのぞくが、すぐに視線を合わせてくれなくなる。
「なん、の……ご用でしょうか……? ゴミは今は無くて……その、また出る予定ですが……えぇと、新聞は、そのっ、あぅぁぅ……」
「えーっとですねぇ……」
根暗というか、弱気過ぎるだろこのお姉さん!? どんだけ周りから叩かれたら、こんなたどたどしくて弱弱しい話し方になるんだ!? 家庭環境や人間関係がめっちゃ気になってくる。
なんだかこっちまで話すこと自体が申し訳なく思ってくるぞ。さっさと話を進めないと、空気がどんよりとしてきそうだ。
「あなたに絵を描いてほしいなって思ってここを尋ねたんです」
「うぁあ……新聞は、そのぉ……」
「新聞売りに来たんじゃなくて、絵を描いてほしいなと。……あの、聞いてます?」
「はひっ……もももっ、申し訳ございません……絵ですね、絵……」
彼女にとって俺の依頼は予想外だったようで、またぎょっとした瞳ががくがくと震え始めた。左右左右とひっきりなしに動いている。
「あっ……も、申し訳ございません……立たせたままで、ごめんな、さい……今、ドアを、開けますね……」
カチャリと鍵が開けられる音。本当にこの人に任せて大丈夫なんだろうかと俺は強い不安を感じるのであった。
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