第15話 うちの幼なじみが、ご迷惑おかけいたしました②

「これを着ろ」




「は?」


なんだ、急に。

草っぱらのど真ん中で言われても。


「何でだよ。もうすぐ城に着くぞ」

「いいから着ろ。その狭衣をくれ」


そう言って着物を脱ぎ始めるタケル。


「早くしろ。左門なんちゃらを助けたいのだろう」

「……分かったよ」


そう言ってしぶしぶ烏帽子を受け取る俺に、タケルはにやりと笑って、





「一日入れ替われ」














「なんだ、入れ替わりって…………」

古びた畳の上で、俺はつぶやく。


結局、タケルは何がしたかったんだ。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



『と、殿様だってえええええええええええええええええええええええ?!』

『そうだ。暮らしはまあまあだが、キュウクツだ。一日入れ替われ』


『……それはいいけど、終わったらのあに会わせてくれるんだよな』

『ああ。明日行くから待っていろ』



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




どうやらタケルはこの城の殿様らしい。

俺がタケルの服着て門通ったら、すんなり入れたもんな。


俺の服を着たタケルと妙にハイテンションな星野は、とっとこ町へ遊びに行ってしまった。

今日は仕事が無いそうなので助かったが、それはそれでタイクツだ。



「ひ〜〜〜〜ま〜〜〜〜だ〜〜〜」



なんとなく声に出してみたが、やっぱり暇だ。



「のあ……………………………………………………………………………」


なんとなく手をのばしてみたが、やっぱり暇だった。


その日はずっと暇だった。

覚えていることといえば、夕食の味噌汁と卵焼きがうまかったことぐらいか。卵焼きが味噌汁にぶち込んであったのは謎だったが。

あと、聞き覚えのある雄叫びが何度か聞こえたことか。














「…………イチ。……ンイチ。ケンイチ。起きろ」


「………………………………………………のあ」



がしっ。




硬い。


「うわああああああああああああああああああああああああああ!」


またタケルの手をつかんでしまったようだ。


「………俺昨日も見てたけど、田辺君間違え過ぎ」

「……………………………………………………」


俺を起こしてきたのは、タケルと星野だった。

そういえば俺、タケルと入れ替わってたんだったな。


「…………タケル。約束は果たした。のあはどこだ」

「我から出すことはできん。今からシュウゾウに左門……………を呼び出せと言え。何かあったときの為に、マサキと二人で待機しておく。来たらこう言え」



こしょこしょ。




…………よく分からない。

そして、星野の人違いは解けたらしい。いつの間に仲良くなってるぞ。


「運が良いな。シュウゾウが来た」

「グットラック!田辺君!」


おいおい……………………………………
















ふう………………………………………

なんとかシュウゾウ……………という男に左門のあを呼び出せと言うことができた。

バレるんじゃないかってくらい、星野の視線が送られてたぞ。



















「――殿。雑用の左門のあ殿と左門伯殿です」





………………左門伯?よく分からないが、のあはいるのか?

さっそく、タケルに教えてもらった言葉を…………



「あ……えーっと……ごく……ろ、う?」


あー、やばい。めっちゃ頼りなくなったぞ。

やっぱり殿様とかいうのは柄じゃないんだよな。


(どうせなら星野が……………………)



ズキッ。



(…………あれ?)


タケルの服を着た星野がのあを助けることを思い浮かべると。

なんだろう。胸が痛くなった。


(気の、せいだ。気のせい!)





「さ、左門、のあ、どの?」




「…………はい!」








ガタッ!












「のあ!」


俺は、気づくと簾を押しのけて飛びついていた。





「…………………………けんちゃん!」





声が馬鹿でかくて、お騒がせで、でも大好きな。




幼なじみに。



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