第14話 うちの幼なじみが、ご迷惑おかけいたしました
――2021年――
「のあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
気味の悪いほどに綺麗な空を見上げ、俺――田辺健一はため息をついた。
幼なじみが、ここ一週間行方不明になっていた。
左門のあ。声かバカデカいお騒がせなヤツだ。
あの日、俺と別れた後にのあは行方不明になった。アイツの親が、のあが帰ってきていないと警察に連絡したからだ。
だから、のあがいなくなったのは俺の責任だ。あの日あの時、俺が家まで送っていれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに。
「俺が必ず見つける」
すっかり日は落ちて、もう暗くなってしまった。
満月の日だった。
そういえば、のあは満月が好きだったな。
のあ。のあ……………………………………………………
「会いたい……………………………のあ…………………………」
アイツの顔を思い出すと、自然と涙が出てくる。
「のあ………………………………………………………っ」
ドンッ。
「あ、すみません」
うつむいて歩いていたので、誰かとぶつかってしまったようだ。
………………………………………ん?
「お……………俺……?」
ぶつかったのは、俺……そっくりの男の子だった。
綺麗な着物と烏帽子を身に着けていて、昔風の子だ。
満月の光に照らされたその顔は……
(偉そ)
ものすごく上から目線だった。
なんだコイツ?!俺とそっくりな顔して上から目線だと?!
まるでお殿様か何かだ。
男の子は俺の顔を見るなり、にやりと笑って
「気に入ったぞ。我についてくるが良い」
「………………………………はあ?」
意味がわからない。何なんだ、コイツ。
…………………………が。一応情報収集だ。
「あの。貴方が言ってることは分かんないんですけど。左門のあって女の子、見ませんでした?髪がぼさぼさの、小学6年生なんですけど」
「ショウガク…………?よく分からんが左門のあという奴は知っているぞ」
…………………………………………!
「本当か?!どこでだ!」
すると、またにやりと笑って
「其奴に会いたいのか?ならば我についてこい」
「………………………………………………………はい!」
のあ、待ってろ。絶対に俺が見つける―――――――――!
「なあ、どこに行くんだ?」
「決まっとるだろう。桜厘山だ」
「いや、それは今登ってるから分かるよ。桜厘山に登って一体どうするんだ」
「山頂まで行くのだ。もうちぃとじゃ」
のあのことを知っていると言われてついてきてしまったが、やはりこの子は意味が分からない。
家に親はいないし、学校ものあのことで臨時休校だ。遅くなっても大丈夫だが……………
「着いたぞ」
いつの間にか、山の頂上に着いたようだ。
桜厘山の頂上に根を張る桜の木は、月の光を反射して透徹に光っている。
桜は満開なのに、花びらは全く降ってきていない。
「…………で、何をするんだ?観光か?一緒に行く人がいなくて俺に頼んだのか?だったら、のあの居場所を教えてくれ」
「……………………………………………………」
のあのことを知っていると言ったのは嘘だったのか?
だったとしたらここで叩きのめしてやる。のあのときみたいに軽くはしないぞ。
そのとき、男の子は上を見上げながら、今までのにやりとした笑みとは違う爽やかな笑顔を浮かべた。
すると、全く降っていなかった桜が舞った。
そういえば、桜厘山の桜、降ってるの見たことなかったな―――――
そう思ったときには、俺と男の子は眩しい光に包まれ、何も見えなくなっていた。
『けんちゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!』
「……………………………………………のあ!」
辺り一面桜に包まれた空間の中、行方不明になっていたはずの幼なじみがこちらに走ってきた。
今一番見たかった顔だった。
のあが目の前にいるのに、俺は男なのに。ぽろぽろと涙があふれてくる。
『ねえ聞いてけんちゃん!私、マンホールに落ちちゃった!』
「ふっ……のあは馬鹿だな」
俺はそう言いながらも、涙があふれ続けていた。
『のあ。行くぞ』
光の奥から手がのびる。のあはそれに吸い付けられるように向かっていった。
『……………ごめん、けんちゃん。私そろそろ行くね』
「のあ………………………のあーーーーーーーーーーーーっ!」
「……………………おい、おい童、起きろ。」
「…………………………………………………………………のあ」
がしっ。
…………………………硬い。
「?!離せ無礼者!」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!」
…………………夢だったのか?
のあの手をつかんだつもりが、男の子の手をつかんでしまったようだ。
ふと周りを見ると、漫画のような古い木造建築がところ狭しと並んでいた。
「童よ。此処はそなたからいう過去じゃ。此処にそなたの探している左門……なんちゃらが居る」
「過去……?どういうことだ。あと、左門のあだよ」
「通解は苦手じゃ。とにかくついてこい」
「なあ君、名前は何だ?」
「そういうのは聞く方から名乗るものじゃ」
「……それもそうだな。俺は田辺健一だ」
「ケンイチか。我はタケルだ」
タケル、か。いい名前だなあ、と俺が言おうとしたそのとき。
前を歩いていたタケルが、急にこちらを振り向いた。
「出てこい曲者!」
「!?」
俺が後ろを振り向くと―――――――
「……………星野?!」
そこには、クラスメートの星野将暉が居た。
「シュウゾウ?!」
硬直状態になった俺とタケルに、星野は完璧キラキラスマイルを放つのだった。
「何で星野がいるんだ。まさかついてきたのか?」
「そのまさかだよ。俺は左門さんが心配だ」
「おいシュウゾウ……………小さくなったのか?どうしたんだ……」
………………一人、話が噛み合っていない奴がいるんだが。
まあそれはいいとして。
「星野、ここはどこか俺にもよく分からない。危ないから帰れ」
「ひどいなあ……ねー、そこの君もなんか言ってよー」
さっきから混乱していたタケルがハッと我に返る。
「シュウゾウ…………どうして此処が分かった!」
「「はあ?」」
びしいっ!と星野に指をさすタケルに、俺と星野はあっけにとられた声を出す。
「…………あのさー。田辺君ソックリな君、さっきから人違いしてない?俺、君のこと全く知らないから」
かなりきっぱりと言った星野。
「そんなはずはない!お前は絶対シュウゾウだ!」
「諦めが悪いねー。じゃあそれでいいよ」
それでいいよって……かなり適当だな。
どうやらタケルは星野を誰かと間違えているらしい。
タケルはコホンと咳払いし、
「ケンイチ、これからあの城へ行く。左門なんちゃらを探しているのだろう?」
「城に行くの?わー楽しみー」
コイツは何回言っても左門なんちゃらと言う気がする。
そして、何で星野はこんなにもテンションが高いのだろう。学校ではないせいか、キャラが変わってるぞ。
そう呆れている間に、タケルと星野はさっさと城に向かっていた。
「のあ………………………………」
俺は、しっかりとした足取りで城への道を踏み込んだ。
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