第11話 この満月を、あいつと一緒に見たかった
「のあ、お前は現代に帰りたいか?」
「………………」
夏陽の急な質問に、私はすぐ答えることができなかった。
この時代に来てから、私は何を目指していただろうか。
「現代に帰りたい」とは思っていなかった。
「…………どっちなんでしょう。私にも分かんない」
「やっぱりな。お前のことだから、気持ちが曖昧なんだとは思ったよ」
「…………夏陽は?」
「俺は…………来てから一ヶ月だしな。そりゃ帰りたいよ」
「い、一ヶ月?!」
初めて聞きましたけど?!
「そこはいいだろ。とにかく、俺は現代に帰りたい。のあには、その手伝いをしてほしいと思ってる」
「手伝い…………」
「のあも帰りたいんだったら俺も手伝うよ」
「…………ふ~ん……そうなんだぁ……」
「……お前、眠いんだろ……」
「はっ!眠くないよ!全然!」
お風呂あがりだったからつい……
「夏陽」
「あ?」
「さみしい?」
「は?お前じゃねえんだから」
「え?いないとさみしい人とかいないの?家族とか友達とか…………幼なじみとか」
私の脳裏にけんちゃんの顔が浮かぶ。
「あー。幼なじみ。幼なじみ…………」
「いるのっ?!」
「いっるちゃいるな。仲悪いけど」
仲悪いんだ…………原因は多分コイツだろう。
「のあはいるのか?」
「…………うん。いるよ。けんちゃんっていうの」
「ふーん。お前は仲良くやってんの?俺は仲最悪だけどな」
「…………いいやつだよ。ちっちゃい頃はけんちゃんが私について回ってたんだけど、今は私が面倒見られてるみたいでさ。たまに悪口言ってくるけどさ。いいやつなんだよ。いっつもみんなの知らないところで頑張ってんだよ。けんちゃんは………………けんちゃん…………」
「のあ?」
「うわあああああああああああああああああああん!けんちゃん!会いたいよお!けんちゃああああああああん!」
「のあ………………」
けんちゃんのことを話しているうちに、ぽろぽろと涙があふれてきた。
会いたい。けんちゃんに会いたい。
「夏陽!私、現代に帰りたい!けんちゃんに会いたい!」
「…………ああ」
「けんちゃん!けんちゃん!けんちゃああああああああああん!うわああああああああん!」
いつの間にか、私は夏陽にすがりついて泣いていた。
「のあ」
がしっ。
「うわっ!変態!」
急に夏陽が私をだきしめてきたので、私は思いっきり拒絶する。
「慰めようと思ったのに!お前なあ!」
「何で男の名前呼んでる時にだきしめてくるのよ。もしかして嫉妬かあ?」
「…………………………………………………」
?!
ぎゃああああああああああああああああああああああ!
夏陽の顔が目の前にあるんですけど?!
「な……夏陽…………?」
「…………のあ?!」
「姉さん!」
お風呂あがりの姉さん!そういえば私先に行ってました!
うおおおおおおおおおおおおおおおお!姉さんに変なところを見られてしまったぞ!(私のせいじゃないけど!)
「私の妹に何してくれてんだガキ!訴えるぞ!」
「いやいや。コイツが泣いてたから慰めてただけだよ!」
「慰めててあんな体制になるかあ!どう見てもお前がせっぷ……しようとしてただろ!」
「誤解です姉さん!私がひっくり返っただけです!」
その後、なんとか姉さんの誤解をとくことができた(?)のだった。
「姉さん。ほんとの姉妹じゃないのに守ってくれてありがとうございます」
「別に。本当の姉妹じゃなくても、私はのあと一緒にいたい」
「姉さん!」
まるで本当の姉妹みたい。そう思うと同時に、私は現代に帰ろうか迷ってしまう。帰ってしまえば、もう姉さんには会えなくなる。
「のあ、その着物きれいだな」
「ああ、これは護衛さんの奥さんに借りたものです」
あ、…………そういえばお礼言ってない。
「あ、明日お礼言ってきますね。まだ言ってなかったので」
「私も行く」
この後、厳しい修行が待ち受けているとは、ふたりは予想していなかったのである。
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