第10話 久方ぶりに
「臭い」
「………………はい?」
急にそんなことを言う姉さん。
「臭い、とは」
「そのまんまだよ。体が臭い。のあ、毎日体洗ってないだろ」
ぎくっ。
そういえば、ここに来てからお風呂入ってない……
「姉さんは毎日お風呂に入ってるんですか?」
「毎日布を水で濡らしてから体をふいてるよ。風呂は時たまな」
それすらやってません…………
「よし、風呂に入ろう」
「へ?」
「城の風呂に入ろう。おっさんに頼みに行くぞ」
「いやいやいや。それまた何で」
「私も最近入ってなかったからな。楽しみだ」
いつの間にか私も行くことになってしまっている……
「じゃー頼みに行ってくるな」
「ええっ!ちょまっ…………」
「はあー、意外ときれいなんですね」
「お殿様が温泉好きだからな。よく手入れしてるんだよ」
…………姉さん、お殿様のことは『お殿様』なんですね……
そのへんは深追いしないでおこう。
私と姉さんは淡い紫の浴衣を着て浴室に入った……というか、浴場に出た。
浴場は外にあって、大きな桶に井戸の水を入れ、火で温めるようだ。
「やったね。貸し切り風呂だよ」
「すごい!運が良いですね!!しかも火がまだついてます!」
もう遅いということもあり、浴場は貸し切りだった。
すごい!石鹸があるよ!この時代にもあったんだね……!
「お、これなかなかいいやつだぞ。シャボンだシャボン」
「お高いんですか?」
「高いな。私も使ったことない」
ひええ。私はご遠慮しておきます……
「私は汗だけ流せればそれでいいので……」
「何言ってんだ!体が臭いつっただろ。一番洗わなきゃいけないのはお前だ」
そうでした……
「おおすげえ!すごい泡立つぞ!」
「そ、そうですね…………」
私は今、姉さんに髪を洗ってもらっている。
姉さんはめっちゃ興奮してるけど、私の家にあるシャンプーの方が泡立ちますね…………昔って大変!
「私は先に入るぞ」
「はーい!」
私は体を洗ってから、浴槽につかった。
浴槽は5人がちょうど入るぐらいの大きさだ。
「あ〜〜、気持ち良いですね……」
「ああ、私も久方ぶりだ!」
私はふと空を見上げる。
「満月ですね…………」
「ほんとだ。今頃おっさんが短歌でも歌ってるかね」
シュウゾウさん…………
お風呂で薄い浴衣一枚だけなのもあって、顔を思い出すだけでドキドキしてしまう。
「気持ち良いな。あのガキも誘えば良かった」
姉さんの言葉で、私の思考が完全に遮られる。
「ガキ…………って」
「ああ。あの雑用係」
な……………………
「なつひぃ……っ」
「?どうした。顔が赤い」
そうだった……この時代の人はこんよ……(コホン)が当たり前だったんだよね……
「私は長風呂でもするかな」
「あ、私のぼせやすいので先あがりますね」
のぼせやすいのは本当なんだけど、もしかしたら男の人が入って来るかもっていうのもある。
私はそくささと風呂場から出た。
「のあ」
「な……夏陽……」
風呂場からの帰り、廊下で夏陽にばったりと会った。
さっき姉さんが言ったこともあり、私は自然に顔が赤くなってしまう。
「のあ、話がある」
―――不気味なほどに綺麗な月が、私たちを見つめていた。
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