第6話 パニックガール現る
「お前誰だ!」
「「のあ(ちび)が二人?!」」
私が……二人?!
いきなり現れた女の子は髪を一つにきれいに結っている。私は髪を結べないので、下ろしていてぼさぼさ。
後ろにおろおろしている護衛さんがいるが、気にせずに立っている。なんだか気の強そうな子だ。
「の…そなたは誰だ?」
「雑用係だよ!手続きしただろおっさん!」
わお!この人某悪ガキみたいなこと言ってます!
雑用係ってことは、まさかこの子が一昨日来るはずだった雑用係?!
「雑用係……のあ、まさか!」
「ひえっ!えーと……その……」
やっぱりこれは打ち首とかの刑に処されるんですかね……
――私が覚悟を決めたそのとき。
「ウッソー!騙されたねおっさん!」
「「……え?」」
女の子がいきなりそんなことを言うもんだから、私とシュウゾウさんは素っ頓狂な声を出してしまった。
「私はコイツの姉。姉貴。お姉さま」
「はあ……」
シュウゾウさんはまだあっけにとられている。
「手続きしたのは本当だけどな。コイツが勝手に先に行ったんだわ。どうせどっちも来る予定だったんだ。混乱させたのは許してくれ」
情報量が多すぎて状況がうまく飲み込めません……
その3秒後くらいにやっと、
そういうことか!
この女の子は、なんでか知らないけど私のことをかばってくれてるんだ!
姉妹のふりをして。どっちも雑用係になることにして。
……いやでも大丈夫なのか?
手続きしたのはあの子で、就職願は一つしかないんでしょ?
でもあの子の代わりに私が来て……
……あー私頭悪いので分かりません!この話やめやめ!
「分かった。どちらも来る予定だったのならいいが……就職願は一つしか処理されていない。だから……」
「あーはいはい!もう一つが処理されてから来ればいんでしょー?」
私だけ話がよく分かっていません……なんとか丸く収まったっぽいけど……
「まあ、これからは嘘はつかないように!今日はもう戻れ」
「「はあーい」」
お腹空いたーっ。早く夜ご飯食べたい!
「のあ。夕食は頼んだ」
…………………………
「へ?」
「調理場にあるものを好きに使ってくれ」
「へ?あ、はい」
いやいやいや。反射的に返事しちゃったけど私料理できません。
「おいちび。ちび。しっかりしろ!手伝ってやっから」
おお!マジですか!
いやでも男だからな……料理できるかな……
「ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!すごいよ悪ガキ!」
シュウゾウさんと女の子が帰ってから私と悪ガキは夕食の準備中。
不器用そうに見えた悪ガキは、実は料理がすごくうまかった!
私が切ったねぎと悪ガキが切ったねぎのクオリティの差は哀れです……
「じゃあお味噌入れるねー!」
「は?!馬鹿かお前!味噌は最後!まだ里芋しか入れてねーだろ!」
「え?!そーなの?!悪ガキって料理うまいし詳しいんだね!」
「ぶはっ……お前が下手なだけだろ!」
うっ……そのとおりだけど、そんな言い方ないよ……
「ねーねー悪ガキー」
「んぁ?ちび、そこのねぎ取れ」
「おふくろって呼んでいい?」
「ぶっ!」
「あーっ!ねぎこぼした!」
悪ガキが私の言葉に吹き出し、私が頑張って切ったねぎをちゃっかりこぼす。
「こぼしたーじゃねえ!なんでおふくろなんだよ!」
「え?料理上手じゃん」
「俺は
へーっ!悪ガキにそぐわない爽やかな名前!
「じゃあ、なつ…ひ?あーやっぱ悪ガキのが似合うよ」
「なんだと?お前の名前なんだっけ。確かちび……」
「左門のあ!いいかげん覚えてよ!」
「はいはい。じゃあち……のあ、ねぎもっかい切れ」
「はーい……いった!指ぃぃぃぃ指ぃぃぃぃ……」
「ぶはははははははははははは!のあやっぱ馬鹿だな!」
包丁で指を切った私を腹を抱えて笑い転げる名前負け悪ガキ。
「あ!やばい!もう夕食の時間だ!」
「俺のせいじゃねーぞ!おい!ねぎは俺が切る!」
――そうして、外は闇に包まれていったのだった。
「ふーっ。おいしーっ!」
私と夏陽が頑張って夕食に間に合わせた味噌汁を、私はごくごくと飲み干した。
「味付け担当が俺だからな。見ろよこの茄子。つながってるぞ」
うっ。茄子は私が切りました……
「そういえば、夏陽は部屋どこなの?」
「部屋?俺は住み込みじゃないぜ。そのへんの町人の家に泊まらせてもらってたからな」
へーっ!口が悪過ぎて、追い出されそうだけど。
「ま、昨日追い出されたけどな」
予想的中。
「どうせ口のきき方ででしょ」
「…………」
図星。
「これからどうすんの?」
「雑用係はここに泊まらせてもらえるんだろ?なら部屋を借りるぜ」
「へー。ここも追い出されないようにね」
「場所は……のあの隣の部屋とか」
「ふーん……」
……………………………………………………………。
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああ?!」
「うるせえ!冗談だわ!」
だって夏陽だもん!今日会ったばっかりだけどさ!夏陽だから!本気だと思っちゃうよ!
「じゃあおっさんにたのんでくるぜ!じゃあな!」
「あ、うん。ばい!」
――今日夏陽と話して、言葉がやけに近代的だと思ったのは気のせいだっただろうか――
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