第253話、最近のグロリア

「グロリアお姉ちゃん!」

「ん」


 ポテポテと街を歩いていると、子供に声をかけられてそちらへ振り向く。

 私を見つけて笑顔で手を振る子供達に、私も笑みを浮かべて手を振った。

 それだけで楽し気に騒ぎ出し、あの子達を見ているとこの街に来た頃を思い出す。


 あの頃そこそこの歳だった友達は、何人かは既に働きに出ていたりする。

 だから最近は遊ぶ事もあまりなくて、けど偶に農作業を手伝ったりはしている。

 今思うと何も考えずに遊べた頃が懐かしいと、少し思ってしまうのは早いだろうか。

 

 そんな事を思い返していると、子供達はパタパタと走って近づいて来た。

 私に手を握って軽く引っ張り、遊んで欲しいと願い出す。


「今日はダメです」

「えー、何でー」

「仕事があります」

「・・・じゃあ明日は?」

「明日も無理です。少しの間は遊べないんです。ごめんなさい」

「・・・そっかぁ」


 残念そうな子供たちの頭を撫でて謝ると、皆何とか納得してくれた。

 手を振りながら去っていく子床達に手を振って見送り、止めていた足を動かす。

 すると『くっくっく』と隣の球体から笑い声が響いた。


『随分慕われたものだ』

「ガライドと遊びたいんだと思います。昨日空飛んでる時、皆楽しそうでした」

『子供達は君が飛ばしてくれている、と思っているはずだが?』

「私はガライドが居ないと飛べないので」

『君のそういう所は、昔より頑固になったな』

「そうかな・・・そうかもしれません」


 ガライドと出会ってから何年も経って、だからこそガライドのありがたさは身に染みる。

 今の私の生活は彼無しでは考えられないし、なら彼ありきの力は彼のおかげだ。

 その考えを変える気は一切ないし、彼への感謝を忘れる気も一切ない。


 彼は恩人だ。大事で大好きで大切な恩人だ。

 ただそこに、一番と言えない自分が申し訳ないけれど。

 今の私は大事な物が増え過ぎた。全部大事で選べない。


 そんな事を思いながらテクテクと歩き、傭兵ギルドの扉を開く。


「あ、おはようございます、グロリアちゃん」

「おはようございます、フランさん」


 ギルドに入るとフランさんに声を掛けられ、私も同じように挨拶を返す。

 他の職員さんや傭兵さんにも声をかけながら、トテトテと受付に向かった。

 道中皆に頭を撫でられたせいで、ちょっと髪がくちゃっとなっている。


「相変わらず可愛いですねぇ・・・やっぱり受付嬢になりませんか」

「なりません。手続きお願いします」

『フランは諦めが悪いな・・・』


 何時ものように私の髪を梳くフランさんの誘いを断り、仕事の手続きを頼んだ。

 すると彼女はがっくりと肩を落とし、受付に入って書類を手にする。


「年々グロリアちゃんの反応が淡々としてきたよう・・・」

「何度も言われたら、慣れます」


 あれからギルド職員に新人さんは一人も居ない。入って来た新人はお爺さんのままだ。

 とはいえお爺さんは色々役に立ったとかで、今は役職についている。

 ただ役職で呼ぶと悲しい顔をされるので、相変わらずお爺さんと呼んでいるけど。


「絶対に人気になるのに。グロリアちゃん相変わらずちまっとしてて可愛いですし」

「少しは大きくなりましたよ?」

『まあ・・・そうだな・・・少しは大きくなったな』


 確かに周りよりは小さいと思うけれど、ここに来た時よりは大きくなったはず。

 胴体の大きさにガライドが合わせてくれたから、手足も少し伸びているし。

 それに私としては可愛さよりも、もう少し大きくなれた方がありがたい。


 手足の長さがあるのと無いのとでは、戦闘の際に大分影響が出るし。

 それに気が付いてもう少し伸ばして貰ったら、動きが鈍くなってしまったけど。

 どうも適正の長さが有るらしい。それからはガライドに長さを任せている。


「フラン、いつまでもグロリアに絡んでねえでとっとと仕事しやがれ」

「はーい。申し訳ありませんでした、ギルマス様ー」

「お前こそ年々態度がでかくなってるだろ・・・悪いなグロリア」


 ギルマスさんは大きな溜息を吐き、私の頭をポンポンと叩く。

 彼ぐらい大きくなれたら良いなと言ったら、絶対嫌だと皆に言われたっけ。

 ギルマスさんと結婚したフランさんまで嫌だって言ったのは良く解らかった。


「はーい、じゃあ手続き終わりましたので、グロリアちゃんお願いしまーす」

「はい、行ってきます」


 受け付けた証明の板を貰ってからペコリと頭を下げ、ギルドを出たら軽く見まわす。


「ガライド、行きます」

『了解』


 ぐっと指先に力を籠め、部分的に小さく光らせて斜め前に飛ぶ。


 消費を抑えながら威力を上げる為に、ガンさんを観察して覚えた技術。

 完全に使える様になるまで二年かかったけど、今では問題なく使えるようになった。

 これを上手く使えば、昔みたいに防御の為に全力で体を覆わなくても良い。


 勿論攻撃を追えることが前提だけど、それでもこれが出来るようになって余裕が出来た。

 少なくともガンさんと打ち合って、先に魔力がなくなる事は完全になくなったし。

 ガンさんが「対抗手段無くなった。無理」って項垂れていたのは少し申し訳ない。


 何より良いのは、光る度に手袋と靴と靴下が吹き飛ばなくなった事だけど。

 リズさんは気にしなくて良いっていうけど、きになるよね。

 そうして建物伝いに飛んで移動して、砦の入り口前に着地する。


「グロリア様、どうぞ」

「はい、お邪魔します」


 兵士さん達は落ちてきた私に一礼し、砦の扉を開いて通してくれた。

 最近はもう大体みんな『グロリア様』って呼んでくる。

 兵士さんに混ざって仕事してる時は『隊長』って呼ばれる事も。


 隊長さんまで時々悪ふざけしてそう呼んでくるのは少し困る。

 

 彼らに礼を返して砦の中に入ると、見覚えのある鎧を着た一団が待っていた。

 その中でひときわ大きい体躯の男性が私を見つけ、スッと立ち上がって近づいて来る。

 ただ彼の優し気な笑みを見て思わず気が緩み、私の口の端も自然と上がるのを感じた。


「メルさん、お待たせしました」

「いや、気にする必要はない。今日からよろしく頼む、グロリア嬢」


 今日から暫く、彼と一緒に魔獣の森に潜る事になる。

 少し嬉しいと思うのは、仕事に対して不真面目かな。


『正式な仕事ではあるのだが・・・こ奴が居ると思うとなんか納得いかんな』

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