第252話、経つ年月

 先の事は解らない。リーディッドさんは、私に忠告するように告げた。

 以前にも似た様な事は言われていたけど、この時の彼女の言葉は重みが違ったと思う。

 それは勿論良く解る話だ。だって今の私の現状がそうなのだから。


 ずっと帝国の闘技場で戦い続けると思った。あそこで生きていくのだと思っていた。

 けれど今の私はとても幸せで、大好きな人達が出来て、ここに居たいと願っている。

 何時か気持ちが変わる時が来るのだろうか。魔獣領から離れたいと思う日が。


 自問自答するも解らなくて、がライドに聞いても、答えの無い問答だと言われた。


『・・・変わる事は間違いではない。だが変わらない事も間違いではない。ただグロリアが願う先がどこであるかは、グロリア自身が決めなければいけないんだ。君が幸せである為にも』


 何故か少し悩むような声音で、答えを出すのは自分自身だと、そう言われた。

 でも自分の幸せを願うのであれば、私は変わらなくて良いし、変わらなきゃいけない事もある。

 それに変わらないときっと解らない事もあるから、それに関しても気にしないといけない。


 何時までも、メルさんに対して『良く解らない』は、失礼な気がするから。


 けれど何からすれば良いのか解らず、まずは解っている事だけは手を抜かない事にした。

 変わらなければいけない部分。今の私の実力に甘んじてはいけない事を。

 毎日鍛錬を続けて、もっともっと出来る事を増やして、全部守れるように。


 答えが見つからない事に悩む時間も必要だって言われて、その時間もたまに作る事に。

 とはいえ何をしたらいいのか良く解らなくて、いろんな人に話を聞いたりするだけだったけど。

 王女様とガンさんを見てれば何か解るかなと思ったけど、あんまり参考にはならなかった。


 実際王女様にも『私とグロリア様では立場が違い、お互いへの想いが違います』と言われたし。


 何がどう違うのか解らなかったけれど、端的に言えば立場が逆だとか。

 ガンさんが私で、王女様がメルさんだと、だから私に問題は無いらしい。

 私が何かに気が付くというよりも、メルさんが頑張らねばいけない事だと、何故か怒っていた。


「それに私は、ガン様の事をお慕いしておりますが、最初は打算もありました。いえ、今も正直に言ってしまえば、彼の利用価値を見ております。けれど私はそれを間違いだとは思いません。そういった全てを含めてお慕いしています。だからこそ、あの方を支えようと思えるのです」


 仕事をさぼってる夫を蹴り飛ばす奥様方が居るでしょう? あれと同じです。

 そう彼女はそう告げた。となると私がメルさんに蹴られてしまうのだろうか。

 彼が私にそんな事を手合わせ以外でするとは思えず、余計に解らなくなった気がする。


 それでも考えるのを止めるのは、多分駄目なんだろうなと暇があれば悩んでいた。

 答えは結局出ないまま鍛錬の日々を続け――――――気が付けば4年たっていた。


 あれから私は、戦闘能力以外は、殆ど変わっていない。

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