第254話、長年の答え

 メルさんに挨拶を終え、彼の後ろに居る人たちに目を向ける。

 彼と同じ格好をした彼らは、その視線を感じた瞬間一斉に動きを見せる。

 第二騎士団と第三騎士団の混合部隊。それらが全員私に向かって敬礼をとった。


 彼らを連れて魔獣の森に入り、彼らを魔獣と戦える様にするのが今回の仕事だ。


『『『『『『『『『『お世話になります、教官殿!』』』』』』』』』』

「・・・はい、宜しくお願い、します」

『相変わらず暑苦しいなこいつらは・・・』


 彼らは去年か一昨年か忘れたけど、それぐらいの頃から私を教官と呼ぶ。

 どうも第二師団長さんと、新しい第三騎士団長さんがそう決めたと聞いた。

 団長さん達にまでそう呼ばれてしまい、困惑した事を覚えている。


 最初こそ私は『教官』という呼び方と言うか、立場的な物を断った。

 だって彼らが私をそう呼ぶ理由は、ガライドの言葉を聞いて成長したからだし。

 定期的に試合やメルさんに会う為に王都に行く度、彼らとも会っていた。


 ただ私は無手での鍛錬しかして来なかったし、感覚的な事しか解らない。

 けどガライドは違う。彼らと私の手合わせや鍛錬の光景を見て、意見を口にしていた。

 私はたただそれを伝えた上で、彼らの練習相手になっただけでしかない。


 それを伝えると『だがその魔道具の持ち主は貴女だ』と言われて今に至る。

 なのでもう教官と呼ばれるのは諦めた。実際魔獣の森の中では教官だし。


「うるっさ・・・よ、グロリア」

「おはようございます、ガンさん」


 そんな彼らの更に後ろから、ガンさんがテクテクと歩いて来た。

 今日は彼も一緒に仕事だから、だいぶ安心して森に入れる。

 彼が居ると居ないとでは、周囲へ気を配る必要の度合いが大分変るし。


「キャスさんはまだ来ていないんですね」

『いや、居るぞ』

「キャスならアレだよ」


 彼が指をさす場所に目を向けると、何かが包まれた毛布が転がっていた。

 ガライドも居ると言っているし、あれがキャスさんという事だろうか。

 あ、でも耳を澄ますと中から「すぴー、すぴー」と寝息が聞こえる。


「遅刻しない様に早めに来たらしい。二度寝してたら意味ねーけど」

「なら起こしてあげないとですね」

「絶対それ前提で寝てるし、一回アイツ置いて行って罰金払わせない?」

「ガンさんが森の中で魔獣の接近を探知出来るなら良いですよ」

「・・・最近はホント言う様になったよなぁ。絶対リーディッドの影響だろ」


 そんな事言われても、私はただガンさんが危ないと思っての言葉だったんだけど。

 ただ確かに言われてみると、リーディッドさんも同じ事を言いそうな気がした。


「もし影響を受けてるなら嬉しいです」

「やめてお願い。グロリアはあんな風にならないで下さい」

「でもあの人は私の目標ですし」

「何でアレが良いのか俺には全く分かんねぇ・・・!」

『まあ、気持ちは解る。私も正直嫌だ』


 リーディッドさん、何時もみんなの事考えてばっかりなんだけどなぁ。

 確かに口が悪いのは認めるけど、その言葉にはちゃんと意味がある。

 ずっと一緒に居ればそれは解ると思うんだけどな。特にガンさんとキャスさんは。


 ガライドも乗り気じゃないけど、そんなにダメかなぁ。

 まあ良いか。とりあえずキャスさんを起こそう。

 そう思い足を踏み出そうとしたら、大きい手に肩を軽く掴まれた。


 振り向くとその手は当然メルさんで、その後ふわっと持ち上げられて抱えられる。


「グロリア嬢、まだ出発予定までは時間がある。彼女はもう少し寝かしていても構わない」

「そうですか? メルさんがそう言うなら、もう少し寝かせてあげましょう」

『・・・当たり前の様に抱えおって』


 当たり前も何も、彼と会う時は大体何時もこうだし、多分当たり前なんだと思うけど。

 私としても彼の傍は嫌じゃないし、むしろ落ち着くので好きにして貰っている。

 メルさんはそのまま近くの椅子に座り、ガンさんはそんな私達に苦笑する。


「部下が見てるってのにお熱い事で」

「義弟殿も妹と仲睦まじくしていると聞いているが」

「・・・まだ義弟じゃないっす」

「すぐそうなるだろう」

「・・・まあ、ええ、そうですね」

『なぜガンは相変わらず墓穴を掘るのか』


 王女様とガンさんは相変わらず、と言うよりも昔より仲がいいと思う。

 嬉しそうに王女様が報告してくるから、彼がどんな感じかは良く知ってる。

 ただガンさんは余り人に知られたくないらしく、けど多分街の人みんな知ってると思う


 キャスさんが大体言いふらしてるし、王女様も一切止めないもん。


「私は焦らねばならない自覚が有るだけだ。義弟殿と違ってな」

「・・・そっすかね」


 メルさんの少し困ったような言葉に申し訳なくなりながら、彼の胸に顔をうずめる。

 ガンさんは疑問を含んだ声音だけど、メルさんにとっては当然の言葉だろう。

 だって私は相変わらず良く解らないから。この安心が恋心や愛なのかどうか。


 ・・・リズさんと一緒に居る時も、この気持ちを抱いてしまうから。


 だから私はメルさんのやりたいようにして貰って、彼の望むままにしている。

 嫌な事は嫌だというつもりだけど、今の所嫌な気持ちになった事は無い。

 何時かは答えを出さないとと思いながら、未だに出せていないのが現実だ。


「むにゅ・・・ふああああ・・・あ、おはよー、グロリアちゃん」

「おはようございます、キャスさん」


 そうこうしている内にキャスさんは自分で目を覚まし、出発の準備を始めた。


『・・・私から見れば答えは出ている様なものだが、グロリアの心情を私が口にするのも違うだろうしな。まああの筋肉はせいぜい苦労すれば良い』


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