第232話、リーグ戦初勝利
余りにもあっさりと打撃が入り、戦闘中にもかかわらず動きを止めてしまった。
けれどそれでも一切問題無い辺り、わざと食らった訳では無いのだろう。
男性は槍を手放してはいないものの、打ち込まれた所を抑えながら苦しんでいる。
「っ・・・うぐぅ・・・!」
『苦しむ・・・程度で済んでいる辺り、やはり魔道具使いと言った所か。今の打撃は普段より力が籠っていた。魔道具で強化していなければ、あの筋肉以外は気絶している威力だ』
筋肉、メルさんの事だろう。確かに彼なら、あのぐらいの打撃は耐えた。
とはいえ耐えられるだけで、動けなくなってしまっていたけれど。
ただ『何時かは一撃ぐらいは貰っても動ける体に仕上げる』とは言っていた。
「・・・あの、これ、倒れてます、よね?」
倒れた際は追撃をしてはいけない。そういうルールになっている。
ただ倒れたという声が審判から上がるはずで、けれど何も言わないので訊ねた。
すぐに立ち上がる場合は別だけど、立てない場合は時間を数えられるはずだ。
意識が無いならすぐに試合は終わるけど、彼は苦しみながらも立とうとしているし。
『―――――はっ、だ、ダウンです!』
するとハッとした様に声を上げて宣言。勝敗が決まるカウントが始まる。
ふと周囲を見ると、歓声が消えていた。驚くような目で私を見ている人もいる。
私は何か間違えただろうか。少し不安になりながら、
「素敵ですよ、グロリアお嬢様ー!」
そこで背後からリズさんの声が響き、それを合図のとしたかの様に歓声が響き渡る。
以前と同じだ。あの時と同じだ。リズさんの声が、私の背中を押してくれる。
「すげえぞ嬢ちゃん!」
「かっこいー!」
「何今の、この距離でも凄い速さだったよ!」
「やっぱり嬢ちゃんが優勝候補だー!」
歓声に涙が溢れそうになる。認めて貰えている事が心から嬉しい。
大きな歓声にかき消されながらも、私の耳には届いているリズさんの声が嬉しい。
キャスさんも応援してくれていて、リーディッドさんも見守ってくれている。
『・・・良かったな、グロリア』
「はい・・・!」
ここに居て良い。私はここに居て良いんだ。闘士の『私』の居場所で良いんだ。
溢れる想いで泣きそうになるのをぐっと堪え、静かに構えを取り直す。
明らかに表情の変わった、立ち上がった対戦相手の目を見て。
「ふぅぅぅぅ・・・油断したつもりは、無かったんだけどなー・・・言い訳か」
彼は呼吸を整えて槍を構え、審判へしっかりとした目を向ける。
その様子に試合続行可能と判断され、試合再開の声が響いた。
と、同時に彼は突っ込んで来て、槍に魔力を纏って真っ直ぐに突き刺す。
「ちぃ!」
肩を狙ったらしき一撃を横に弾くと、彼は即座に槍を引いて二撃目を穿つ。
これも肩の関節辺りを狙った一撃で、初撃と同じように横に弾く。
そして一撃目も二撃目も、私は弾きながら一歩前に進む。
「なっ・・・!」
三撃、四撃、五撃、連続で、高速で、突きを重ねて私を遠ざけようとする。
一撃目こそ突撃してきたけれど、少しずつ後ろに引きながら刺突を重ねている。
それを隊長さんとの槍の訓練と同じ様に、弾き、逸らし、いなしていく。
彼とは速度が段違いだけど、彼と違って軌道が素直でやり易い。
なら私は何時もの様に、そう、何時もの様に、前に、前に。弾きながら、前に。
「あれ、両手足が・・・!」
「アレがあの子の魔道具なの!?」
「・・・あれ? あの子の手足、一回でも光ったっけ?」
「え、いや、まさか、魔道具無しで戦ってるなんて、そんな訳・・・」
「つーかあの子、あの攻撃の中ずっと真正面から前に進んでんぞ!?」
「うっそだろ・・・」
槍をいなしている間に手足を覆う布が裂けて行き、黑い両手足が露になっていく。
試合前に外すつもりだったけど、付けたままが良いとリーディッドさんに言われた。
私としてはあんまり良くないんだけどな、と思いつつも今は防ぐ余裕も無い。
「勘弁、しろっ!」
高速の連続突きの中、一瞬だけ溜めがあり、叫びと同時に放たれた。
その瞬間に合わせて少し大きめに進み、彼の一撃は私が詰めた事で不発に終わる。
振り抜いた先に私は居らず、既に彼の懐に潜り込んで拳を握っていた。
「ぐっ!?」
バァンと大きな音が響く一撃。吹き飛ばした時よりも力を籠めた一撃が胴に入る。
彼はよろよろと後ろに二、三歩下がった所で、ドスンと尻もちをついた。
反射的に槍を支えに立とうとしたけど、足が震えて今度は前に倒れた。
『ダウンです!』
審判による宣言が響き、同時に歓声が上がる。私を認めてくれる歓声が。
男性は何とか立とうとしていたけど、腕にも足にも力が入らず立てなかった。
『試合終了です! 勝者、グロリア!』
そして私の勝利が宣言され、ペコリと応援してくれた皆に頭を下げる。
するとまた大きな歓声が上がり、流石にちょっとビクッとした。
嫁に来てくれーって言ってる人が居るけど、それは既にメルさんに言われてるから無理かな。
『・・・顔、覚えたぞ』
ガライドが何だか怖い声を出している。何か気に食わない事言われたのかな。
流石に私は歓声を全部聞き分ける事は出来ないけど、ガライドなら聞こえているんだろう。
そこでハッとして、職員さんに手を借りて立ち上がろうとしている男性に近付く。
「ありがとう、ござい、ました」
そうしてペコリと頭を下げると、彼は苦笑して「こちらこそ」と言い去って行った。
自分ではまだ上手く歩けないようで、職員さんに肩を貸して貰ってだけれど。
それを見届けてから歓声を背に舞台を去り、待っていてくれたリズさんに近寄る。
「ちゃんと、試合を、頑張りました」
「はい、お嬢様、ご立派でしたよ」
「―――――ありがとう、ございます」
リズさんは私をギュッと抱きしめてくれて、するとぽろぽろと涙が溢れる。
彼女に抱きしめて貰えるとホッとする。ここに居て良いんだと思えるから。
ちゃんと頑張れたんだって、自分でも納得出来るから。
「・・・本当に、変わりましたね、リズは」
「グロリアちゃんが懐く訳だよねー・・・親子みたい」
親子。私が子で、リズさんがお母さん。お母さんって、こんな感じ、なのか。
彼女がお母さんだったら、きっとずっと、もっと前から幸せだったんだろうな。
『悔しいと思うのも情けない話だが・・・やはり悔しいな。いや、グロリアが幸せならば、それを願うのが一番の優先事項だ。それだけは間違ってはならない』
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