第222話、行先変更

 王都へ向かう道中は特に問題は無く、平和そのものだったと思う。

 相変わらず王都へ向かう程魔獣が減って、ただただのんびりした道行だ。

 そう思うとやっぱり私の居場所はここじゃないんだと、改めて感じてしまう。


 後は休憩の時にガンさんの様子がおかしかった事が有ったぐらいだろうか。

 王女様はとてもご機嫌だったし、侍女さんの様子は何時も通りだったけれど。

 口元を抑えて顔が紅かったから、調子でも悪いのかと心配した。


「いや、ごめん、大丈夫だから、ほっといてくれ、すまん」


 訊ねるとそんな風に返されたので、心配だけどそれ以上何も言えなかった。

 ただ体調を崩した訳じゃないと、ガライドが言ってくれたので少し安心したけど。

 とはいえ結局理由は『グロリアにはまだ早い』と言われ教えて貰えなかった。


 そんな訳で少し気になる事はあったけれど、問題はほぼ無かったと言って良いと思う。


「・・・王都だ。また、来ましたね」

『ああ、また来たな』


 目に映る景色に思わず呟きが漏れ、ガライドが何時もの様に応えてくれる。

 だから余計に実感する。また王都に来たのだと。

 始めて来た時と同じ光景だ。人が多くて、壁の外にも街が有る。


 その様子をポーっと見つめていると、先の方が騒がしくなったのを感じた。

 何か有ったんだろうか。首を傾げながら外を眺めていると、そのざわめきが近付いて来る。

 そうして暫くすると、ゆっくりと車の速度が落ちていくのが解った。


「どうしま――――はぁ」


 リーディッドさんが小窓を開けて御者さんに確認を取ろうとして、言い切る前に溜息を吐いた。

 何か問題だろうか。大丈夫なのかな。不安になりながら彼女を見つめる。


「魔獣領からのお客人をお迎えに上がった! 御目通りを願えるか!」


 すると大きな声が響き、窓から何とか前の方を確認してみた。

 見覚えの在る格好の人達だ。そして見覚えのあるトカゲに乗っている。

 騎士だ。見覚えのない人ばかりだけど、多分騎士だと思う。


「・・・少し出てきます。キャスとグロリアさんは残っていて下さい」

「大丈夫、ですか?」

「ご心配なさらず。言葉通り迎えに来たのでしょう。まあ罠の可能性も無いとは言いませんが、迎えに来た騎士団が第一という事を考えれば、おそらく問題は無いでしょう」

『安心しろグロリア。いざという時はすぐに動けるように準備しておく』

「・・・わかり、ました」


 彼女がそう断言するのなら大丈夫だろうし、ガライドの補助が有れば助けにも入れる。

 そう納得して頷き、彼女は私の頭を一撫でして出て行った。

 暫く待つよリーディッドさんが戻り、また車が動き出す。


「行先はお城になった感じー?」

「ええ。面倒臭いから本当は行きたくないんですけどね。ま、あのジジイが消えて、グロリアさんの存在が周知された今、下手な事をして来る馬鹿も少ないとは思いますが」

「居ない、とは言わないんだ」

「何時の時代もどんな場所でも一定数物が見えていない人間は居るものです」

「そりゃそうか。ま、私はレヴァちゃん元気か気になるから良いかな?」

「あんな腹黒王子とは縁を切った方が良いですよ」

「リーディッド、鏡見せてあげようか」

「手鏡なら持っています。あら美人ですね。それが何か?」

「くそう、否定出来ないのがムカつく」

『本当に仲が良いなお前達は』


 キャスさんはぐぬぬと唸るが、リーディッドさんは涼しい顔だ。

 でも実際リーディッドさんは綺麗で、否定する必要も無い様な。


「リーディッドさん、綺麗、ですもん、ね」

「だってさ、リーディッド」

「・・・グロリアさんは純粋過ぎて照れますね」


 私もキャスさんと同意見だと頷くと、リーディッドさんは照れた様子を見せる。

 キャスさんがにまーっと笑って嬉しそうなのは何故だろう。さっき悔しがってたのに。

 そういえば悔しいって事は、キャスさんは自分が綺麗じゃないって思ってるのかな。


「キャスさんも、綺麗、です、よ?」

「ですって、キャス」

「・・・いやうん、不意打ちでちょっと照れた」


 頬を抑えながら視線を逸らすキャスさんを、リーディッドさんが覗き込むように見つめる。

 二人とも楽しそうで、ただふと視線を横に向けた。私の隣に居るリズさんに。


「リズさんも、何時も、綺麗、です、ね」

「・・・ありがとうございます」


 彼女は一瞬目を見開き、そして優しい笑顔で礼を返して来た。

 それは何時も通りの綺麗な笑顔で、そこは初めて会った時と変わらない。


「因みにお城に行くって事は、メルちゃんに会えるって事だよ、グロリアちゃんや」

「っ、会えるん、でしょうか」

『・・・グロリアが城に来て、あの男が会いに来ないという選択は無いだろう』


 そうか。メルさんに会えるんだ。もうすぐメルさんに会えるんだ。

 先ずは闘技場に行ってからと思ってたから、もっと後になると思ってた。


「・・・楽しみ、ですね」


 思わす口の端が上がる。彼と会えるのは、とても楽しみだ。


『・・・この表情をあの男に見せるのが嫌だな』

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