第195話、一段落
エシャルネさんが無事に魔道具を手にして、ホッとしながら王女様の部屋へと向かった。
最初彼女はとても晴れ晴れとした様子で、けれど今はメルさんの前で泣いている。
『・・・重いな。子供が背負うには、とても重い。それでも、背負うんだな、彼女は』
そんな彼女を見ていたガライドは、そんな風にポソリと呟いた。
重い物。きっと実際に持つわけじゃないだろう。それぐらいは流石に解る。
多分私には全く想像のつかない重さで、彼女はその重さにこれから苦しむんだろう。
「言ってくれたら、呼んでくれたら、すぐ、助けにきます」
だから思わず、そんな言葉が口から出た。だってきっと、私は助けて良いはずだ。
メルさんがそう言っていた。周りに助けてくれて、叱ってくれる人が居るって。
叱るのはリーディッドさんに任せる。だから私は全力で助ける。
彼女は友達だから。仲間だから。だからきっと、それで間違いない。
「・・・ふふっ、ありがとうございます。グロリア様が助けて下さるなら、心強いどころの話ではありませんね。何事にも負ける気がしません」
すると彼女は一瞬キョトンとしたものの、嬉しそうな笑顔でそう答えてくれた。
彼女の笑顔にホッと息を吐き、ふとメルさんに視線が合う。
彼しい笑みを見せるとすっと立ち上がり、そしてそのまま扉へと向かった。
「俺は少々用事を思い出した。ここで失礼する」
そう言うと誰の返事も聞かないまま、部屋を出て行ったしまった。
仕事なのかな。少し寂しいけれど、用事があるなら仕方ない。
「優しい方ですね、殿下は・・・」
「はい、凄く優しい人、です」
『まあ、それは、そう、だろうな・・・』
締められた扉を見つめながら告げるエシャルネさんに、私も頷きながら同意する。
ガライドは何だか凄くつまりながら肯定している。本当はメルさんの事好きなんじゃ?
するとエシャルネさんはクスクスと笑みを見せ、とても優しい顔を私に向けた。
「殿下と、仲良くなさって下さいね」
「えと・・・はい、気を、付けます」
多分メルさんと仲が悪くなる時は、私が悪いときな気がする。
だって彼は凄く優しいし。そんな彼に嫌われるとかよっぽどだと思う。
「ふふっ。お願いします。では殿下が気を使ってくれた事ですし、少々気を緩めてお茶にでも致しませんか・・・と、すみません。王女殿下の許可も無く勝手な事を」
「いえ。構いませんよ。私もそう思っていた所ですから」
「・・・ありがとうござます、殿下」
王女様とエシャルネさんが笑顔を向け合い、その様子は長年の友達の様だ。
今日会ったばかりなのに、私より仲良くなってる気がする。
いやでも、二人は前々から知り合いではあるのか。お互い知ってたもんね。
なら付き合いは私より長い訳で、仲が良いのもおかしくはないのか。
まあ仲が良いのは良い事だ。友達の仲が良いと私も嬉しい。
「あ、じゃあ、俺も失礼して・・・」
「ガン様、行ってしまわれるのですか・・・? 何かご用事でも・・・?」
「い、いえ、用事って、訳じゃないんですけどね?」
すっと出て行こうとしたガンさんの袖を、凄い速さで王女様が掴んだ。
完全にガンさんの動きを読んで、先回りする様に足を踏み出していた。
『・・・そう言えば、王女は剣も習っているのだったな。良い動きだ。使用例が合っているのかは甚だ疑問ではあるが』
両手でガンさんの袖を掴み、ウルウルした瞳で見上げる王女様。
彼女に問われて、ガンさんは「うっ、うう・・・」と呻く。
そしてほんの少し見つめ合った後、彼は残る事が決定した。
大体何時もの事だ。魔獣領でも大体こうだったし、城に来てからもそうだし。
ガンさんは王女様の事好きだと思うんだけどな。何で逃げようとするんだろう。
怖いっていう割に、そんなに思いっきり避けてる感じしないもん。
「やっと落ち着いてお茶が飲めそうですね・・・」
「あははっ、濃い数日間で、落ち着いてられた日が少なかったもんねぇー」
「他人事のように言ってますが、貴女も原因の一つですからね、キャス」
「なーんの事かわっかんないなー?」
「まったく・・・」
そうしてリーディッドさんの言う通り、何だかやけに久々に落ち着いてお茶を飲んだ気がした。
食事の時も飲んでたはずなんだけどな。皆の空気がやけに緩いからかも。
「そうだ、グロリア様。お願いがあるのです」
「何、ですか?」
ほへぇっと気の抜けた息を吐いていると、エシャルネさんが声をかけて来た。
一体なんだろうと首を傾げつつ、叶えられる事なら何でも叶えるつもりだ。
私に出来る事なんて限られているけど、きっと出来る範囲の事だと思うし。
「一手ご教授、願えませんか。私は古代魔道具を手に入れましたが、使いこなせる自信が一切ありません。グロリア様に教えて頂ければ、少しは使える様になるのではと」
「・・・わかり、ました」
叶えられる事だった、けど、ちょっとだけ、不安。大丈夫かな。
だってそれって、多分魔道具で打ち合うのも、入ってるよね?
『・・・まあ、万が一の時は、私が制御すれば問題無いだろう』
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