第196話、本当の機能

 エシャルネさんに戦い方を教えて欲しいと言われ、不安ながらも頷き返した。

 とはいえ古代魔道具同士の鍛錬という事で、今すぐやるという訳にはいかないらしい。

 特に彼女はまだ魔道具の扱いに慣れていない。万が一被害が出ても良い所でやる事になった。


 そうして翌日、エシャルネさんと共に車に乗って王都を出た。

 勿論リーディッドさんやキャスさんも一緒だ。

 後は王女様も見学したいという事で、ガンさんは王女様の隣に座っている。


 そして私達の乗る車の後ろを、第一王子様が乗った車が付いて来ていた。

 新しい古代魔道具使いがどの程度か、王族として見極めたいという事らしい。

 それなら王女様が居るから良いのではと思ったけど、何か違うらしい。


「・・・何も無い平原ですね。確かにここなら、何も問題は無さそうです」


 そうして目的地に着いて車を出たエシャルネさんは、周囲を見回しながらそう呟いた。

 彼女に続いて降りた私も周りを見回し、ただ草が揺れる広い平原に少し目を奪われる。

 始めて広い平原を見た時に感じた、不思議な解放感を覚えて。


「この辺りは土地が悪くてな。生命力の強い使い道の無い雑草ぐらいしか育たん。故に何が起ころうと誰も何も咎めん。好きなだけ打ち合うと良い」


 まだ止まっていない車から飛び降りた第一王子様が、こちらに近付きながら説明をしてくれた。

 とはいえその話は事前に聞いている。周りを気にしなくて良いからこそ遠出をしたのだし。

 護衛の人達が慌てて彼を追いかけているけれど、王子様は特に気にした様子も無い。


「さて、改めて古代魔道具使いとして、見極めさせて貰おうか」

「殿下のお眼鏡に叶うかは解りませんが・・・起動」

『システム機動』


 謁見の時と同じく、エシャルネさんの言葉に反応して、魔道具が筒の形になる。

 同時に優しいオレンジ色がまた彼女を包み、何故か不思議と威圧感を感じない。

 そんな彼女を見た王子様は、溜め息を吐きながら口を開いた。


「完全に認められている様だな。全く、あの女狐をこうも鮮やかに追い落とすとは・・・誰も彼もを良く欺いたものだ。普段を知っている者であれば、誰も疑いの目を向けんだろうな」

「・・・殿下、私は、追い落としたつもりは・・・いえ、そうですね」


 エシャルネさんは反論をしようとして、けれど途中で顔を伏せてやめた。


「俺にも演技を続けるつもりか? 解っていないと思われるのは心外だな」

「・・・私には、殿下が何の事を仰っておられるのか解りかねます」

「そうか。まあ良い。俺はお前が使えるのか見極めるのが役目だ。精々頑張ると良い」

「はい。殿下のお心のままに」


 エシャルネさんは第一王子が居るせいか、物凄く固い様子しか見せない。

 でもついさっき、車の中では物凄く何時も通りで、相変わらず変化が激しい。


「では、先ずはどう致しましょうか、グロリア様」

『取り敢えず、普通に使えるか、確認した方が良いのではないか。先ずは撃てるかどうか』

「えっと、撃てるかどうか、確認、しましょう」

「解りました。ええと、空に向けて撃ちますね」

『エネルギー充填開始。発射準備完了』


 エシャルネさんは筒の先を空に向け、魔道具に魔力を軽く通す。

 オレンジ色の光が魔道具を包むと、以前に聞いた覚えのある音が魔道具から響く。

 そうして『放て』と彼女が口にすると、空に太い青い光が高速で登って行った。


「あれ、青い、ですね。オレンジ色、なのかと」

「ですね。私もてっきり、オレンジ色になる物だと思ってました」

『これは事前に魔力を充填して使うタイプだ。彼女が手にしたのが先日と考えれば、充填されているのは姉の魔力。故に青い光になったのだろう。暫く使っていれば色は変わるはずだ』

「暫くしたら、オレンジ色に、なるらしいです」

「・・・ああ成程。姉の魔力が消えるまで、という事ですね」

「みたい、です」


 私はちょっと言葉が足りなかったけど、エシャルネさんはすぐに気が付いてくれた。

 その後は私の指示、もといガライドの指示で、色々な機能を試した。

 一撃の威力調整は勿論、連射や飛距離、防御性能も確認した。


 それと姉は使ってなかったけれど、接近戦用の機能も有るらしい。

 筒状態だけだと思っていたら、他の形にも変わるそうだ。

 ガライドが何かをしたらしく、彼女の魔道具から音が鳴り始める。


『接近戦モードに移行』

「わ、わ・・・!」


 エシャルネさんは慌てつつも、しっかり手にもって離さない。

 その間に魔道具は形を変え、大きな槍の形になった。

 接近戦と魔道具が言ってた気がするけど、これだと大きくて接近戦はやり難い様な。


「・・・形態変化だと・・・まさか、知らないぞ、そんな話は・・・!」


 王子様はそんな魔道具を見て物凄く驚いている。

 でもガライドも結構変形するし、そんなに珍しい事でもない様な。

 腕が曲がったり掘削機になったり穴だらけになったりするよ?


「どうしましょう・・・私、槍の訓練はした事無いんですよね・・・帰ったら頑張らないと。それにしても不思議ですね。明らかに持ち手が太いのに、手に吸い付く様です」

『魔道具の力で補助されていると思えば良い。余程の攻撃を受けない限り落としはしない』


 そういえば、あの『炎剣』を引きはがした時も、普通には奪えなかったっけ。

 きっとこの槍も同じ様なモノなのだろう。試しに叩いてみても彼女は落とさなかった。


「グロリア様が叩いても落とさないとは・・・凄いですね、古代魔道具とは」


 王女様が物凄く感心したように呟いている。でも実際凄いと思った。

 だってエシャルネさんは、そんなに強く握ってる様に見えなかったから。

 そういえば彼女の姉から奪った時は、青い光を打ち抜いてから奪った気がする。


 その後もガライドが色々と呟きながら、その度に魔道具から音が鳴る。

 変形したり、光を放った李り、接近用形態の攻撃状態を発動したり。

 その度にエシャルネさんは少し慌て、それでも懸命に魔力を操作している。


 一通り確認が終わったとガライドが告げ、それを私が告げた頃で彼女は頭を下げた。


「ありがとうございます、グロリア様。私一人では、この魔道具の機能の一割も出せなかったと思います。本当に、感謝してもしきれません」

「え、えっと、私じゃなくて、ガライドが、居たからで・・・」

「解っております。ガライド様のおかげで有るという事は。それでもグロリア様が居なければ叶わなかった事なのです。ありがとうございます。本当に、心からの、感謝を」

「は、はい・・・」


 本当に私は何もしていないんだけど。だってガライドの言葉を伝えてただけだし。

 それでも彼女が礼を言うのであれば、私は素直に受け入れるべきなんだろう。


「そしてもう一つ我が儘をお許しください」

「我が儘、ですか?」

「はい。古代魔道具使いのお力を、そして私がどれだけ未熟なのかを、教えて頂きたいのです」

『つまり、手合わせをして欲しい、という事だな。まあ、元々その予定だったからな』


 手合わせか。本当に大丈夫かな。ガンさんと違って、彼女に脅威を感じない。

 勿論この魔道具が危ない事は解る。光剣が光った時と同じ感覚だ。

 けれどガンさんを相手にした時の様な、背筋を伝う冷たい恐怖の類が無い。


「どうか、お願いします」

「・・・わかり、ました」


 それでも彼女が願うならと、手袋と靴下を外して彼女の相手をした。

 ただ結果は当然というべきか、彼女は私の動きについて来れなかったけれど。

 それでも彼女は満足だったらしい。本当の古代魔道具使いを知れて良かったと。

 私としては、大怪我をさせずに済んで良かった、という安堵でいっぱいだったけど。


「ありがとうござました。やはり、道具よりも使い手ですね。精進しなければ」


 ただ彼女が満足そうに呟いていたので、まあ良いかと思う事にした。

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