第183話、皆の無事

「――――あの、リズさんは、使用人さん達は、どこ、ですか?」


 リーディッドさんと王女様は助けられた。キャスさんとガンさんも無事だった。

 けどリズさんの姿が無い。使用人さんや、護衛の兵士さんも。

 まさかと、嫌な予想が頭をよぎる。ホッとしたのに、一瞬で背筋が寒くなる。


「殺してはいないだろう。少なくとも、リーディッド嬢の罪が確定されるまでは。妹が生きている間はまだ強硬策を取れんだろうし、どこかに軟禁されているはずだ」

「っ、ガライド、お願いします!」

『任された。ルート案内を開始する』


 ガライドが即座に出してくれた矢印を見て、即座に足に力を込めた。

 案内されるままに走り続け、驚く周りの反応も無視して走り続ける。

 そして見覚えの無い騎士さん達が集まっている部屋が在り、そこからリズさんが出て来た。


「リズ、さん!」

「グロリアお嬢様! 良かった、ご無事でしたか」


 リズさんの名前を叫んで駆け寄ると、騎士さん達は一瞬構えた。

 けれどすぐに構えを解き、私の元へ走って来るリズさんを見送る。

 彼女は私の傍まで来ると、膝を突いて抱きしめて来た。


「リズさん、怪我は、無い、ですか?」

「はい、ありません。この通り元気ですよ・・・きっとグロリアお嬢様が助けて下さったのですよね。ありがとうございます」

「えと、私より、メルさんの、おかげ、です」

「・・・そうですか。それは殿下に改めてお礼をしなければなりませんね」


 リズさんはそう言いながら私を抱きしめる力を強め、私も彼女を抱きしめる。

 すると何故かひょいッと持ち上げられ、彼女の腕の中に納まる事に。


「リズ、さん?」

「はい、何でしょう、お嬢様」

「いえ、えっと、重くない、ですか?」

「お嬢様は羽の様に軽いですよ」


 それは無いと思う。だって私の手足は重いって、ギルドの皆も言ってたし。

 本当に無理してないのかな。ちょっと心配だな。そう思っていると背後から足音が響く。

 見るとリーディッドさん達で、私を追いかけて来た様だ。


「リズ、無事でしたか。けが人は?」

「一人も居りません。リーディッドお嬢様の指示通り、一人も抵抗しておりませんので」

「そうですか。良く守ってくれましたね」

「お嬢様の命ですから。信じております」

「・・・すみません。今回は流石に、少々やり過ぎました」

「お解りであれば構いません」


 リーディッドさんが珍しくリズさんに謝っている。リズさんも少し怒っている様に見えた。

 二人の珍しい様子に少しオロオロしていると、王女様を抱えたメルさんが口を開いた。


「取り敢えず一旦部屋へ戻るとしよう」

「そうですね。そうしますか」


 彼の提案にリーディッドさんが応え、取り敢えず寝室へと戻る事にする。

 ただ王女様がまだ目を覚まさない。大丈夫だろうか。

 心配で見つめていると、ガライドが『寝ているだけだ』と教えてくれた。


 ならきっと大丈夫、なんだろうけど、目を開けるまではやっぱり心配だな。

 でも無理に起こす気にもならず、提案通り離宮を出る事にする。

 ただそこでキャスさんの動きが何だかおかしい気がした。


「キャスさん、どこか、痛いん、ですか?」

「へ?」

「歩き方、おかしい、ので」

「あー、んー、まあ、ちょっと。あーでも気にしなくて良いからねー」

「そう、ですか・・・」


 あははーと笑って告げる彼女に、心配だけど何とも返せずただ歩を進める。

 そして離宮を出て元の城に戻り、そのまま寝泊まりしていた部屋へと戻った。

 部屋の前には騎士さん達が未だ居て・・・いや、違う。あの人達は・・・。


「ご苦労」

「はっ」


 メルさんが声をかけると、礼を返す騎士さん。この人第三騎士団の人だ。

 この間手合わせをした覚えがある。彼は私達にも礼をして来た。

 私もぺこりと頭を下げると、彼はふっと優しく笑みを見せてくれる。


 中に入ると騎士さん達が詰めていて、ただし中も第三騎士団の人達だ。

 団長さんも居て、私達に気が付くとこっちにやって来た。


「すまんな、何も出来ず全てが後手になった」

「団長の責任ではありません。第二絡みであれば兎も角、それより上も絡んでいましたので」

「・・・そうか。詳しい話はまた後で聞く。ここでは不味いだろう」

「はい、報告は後で。取り敢えず俺は妹を寝かせてきます」


 メルさんは団長さんに礼をして、王女様を抱えて部屋を去って行った。

 言葉通り王女様を部屋に連れて行ったのだろう。

 ただ去って行く際の彼の背中が、やけに物悲しそうに見えたのは気のせいだろうか。

 知らない人もここまで一緒だったけれど、第三騎士団の人と何処かに行った。


「では、ガンを休ませてあげますかね。気を張り過ぎて酷い顔ですよ、貴方」

「そうさせて・・・気が抜けて今めっちゃ眠い」

「はいはい、お休みーガン。ゆっくり寝なー・・・ありがとね、気を張ってくれて」

「・・・気にすんな。勝手に張ってただけだ。お休み」


 ガンさんは見るからに眠そうな様子で部屋に入って行き、多分そのまま寝るのだろう。

 こんな事が有ったので姿が見えないのは心配だけど、眠りの邪魔をしちゃいけない。

 ぐっと我慢して彼を見送ると、今度はキャスさんが動いた。


「リーディッド、ちょーっと部屋借りるねー」

「どうぞ。これでも使って下さい。誰か、水もお願いします」


 キャスさんが何故かリーディッドさんの部屋へ行き、仕様人さん達がパタパタと動く。

 なぜ私と同じ部屋じゃないのだろうか。不思議に思いながら彼女が出て来るのを待つ。

 その間手の空いた使用人さんがお茶を淹れてくれて、優しい味に少しほっとした。


「いやー、お待たせ―。あっはっは、慣れない事するもんじゃないねー」


 暫くしてキャスさんが部屋から出て来て、片手に光剣をクルクルさせていた。

 あれ、何で彼女が持っているんだろう。それはガンさんの物、だよね?


『・・・グロリア、事情は詳しく話せんが、キャスの腹部に手を当ててくれ』

「え、な、何で、ですか?」

『少々負傷している。自然な事であれば放置するが、今回の事は不測の事態だ。放置するのは少々忍びない。すまないが調整はこちらでやる』

「そ、そう、ですか・・・」


 やっぱりキャスさん怪我してたんだ。歩き方おかしかったもんね。

 心配になりながら彼女に近付き、そっとお腹に手を当てる。


「ふぇ? グロリアちゃんどうし――――」


 そして手が淡く紅く光り、すぅっと光が彼女の中へ流れこむ。

 これでもう大丈夫なんだろうか。確かめるようにガライドへ目を向ける。


『これで良いだろう。全く無茶をする・・・』


 良く解ってないままだけど、怪我は多分治ったんだろう。良かった。

 そう思いホッと息を吐くと、キャスさんが私に困った顔を向けていた。


「あれ、あー、えっと、もしかして、グロリアちゃん解ってた感じ?」

「いえ、えっと、良く解らない、けど、ガライドが、こうしろって」

「ああー、成程。相変らず気遣いが出来るねぇ。ありがとねー!」


 キャスさんは球体のガライドを抱え、小さい子を褒める様に撫でながら礼を告げる。

 その様子を騎士さん達は不思議そうに見ていたけど、彼女は一切気にしない。

 彼女は満足したのかガライドを私に返し、そこで私は礼を言っていない事に気が付いた。


「ガライド、ありがとう、ございます。全部貴方の、おかげ、です」

『・・・私の存在はただの補助だ。君が頑張った成果に過ぎん』

「それでも、それでも、ありがとう、ござい、ます」

『ああ、感謝は喜んで受け取ろう』


 ガライドの嬉しそうな声音に、私も少し嬉しくなってきゅっと抱きしめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る