第174話、足りない補給
騎士さん達が魔獣を拾いに行ってくれてる間、私は天幕という物の中で休んでいた。
落ち着いて休む場所が必要だろうと、メルさんが組み立ててくれた物だ。
気にしなくて良いと言ったのだけど、逆に同じ言葉を返され大人しく休んでいる。
『言葉に甘えておけ。グロリアはそれだけの事をして、今は消耗しているのだからな』
ガライドがそう言ったのも理由だろう。なので今はぼーっと休んでいる。
簡易ベットらしいクッションを折って、お尻に敷いているので座り心地も悪くない。
外での休憩でこんなに快適で良いのだろうか。なんて思いながらメルさんを待つ。
彼は何かの用意をしているらしく、外でガチャガチャと音がしている。
手伝いますと言ったのだけど、彼にもガライドにも休めと言われたので何も出来ない。
確かに疲れているのだとは思うけど、そこまで何も出来なくはないと思うのに。
屋敷では余りさせて貰えなかったけど、ギルドでは雑用も頑張ってるんだけどな。
なんて思いながら、ガライドを抱きしめたままコテンと横に倒れた。
外から火を点ける様子と、お湯を沸かす匂いを感じながらぼーっと天井を眺める。
「私、役に、立ちました、か?」
『今頃どうした。奴の顔を見ただろう。役に立ってないと思うのか?』
「メルさんは、優しい、ですから」
『・・・奴は無意味に優しい事は言わんだろう。グロリアは役に立った。間違い無く君は望まれた仕事を果たした。いや、本来はしなくても良い事をやった。奴は間違い無く評価している』
「そう、ですか。なら、良かった」
ガライドの言葉に安心して目を瞑る。私もメルさんが無意味に嘘をつくとは思ってない。
けれど彼は私に対しやけに優しいから、役に立ってなくても許してくれそうな所がある。
けれどガライドは違う。駄目な時は駄目と言ってくれるから信頼できる。
「ありがとう、ございます。ガライド」
『・・・ああ』
ただお礼を告げると、ガライドは何故か少し歯切れが悪かった。
お礼を言うべき所じゃなかったかな。でも言いたかったのだから仕方ない。
仕方ないか。お礼を言って、こんな風に思えるのもガライドのおかげだろうな。
「ん、皆、戻って来た、みたいです、ね?」
『その様だ。地竜の足は静かだが、騎士達の足音はうるさいな』
ガチャガチャと鎧の音が沢山聞こえ始め、血の匂いをここまで香り始める。
お腹が減っているせいだろうか、普段より鼻がとても良い気がした。
恐らく外ではガライドの仕留めた魔獣が集められているのだろう。
よく考えたらあれ全部ガライドが仕留めたやつなんだよね。
自分で仕留めた訳じゃないから、ちょっと申し訳なく感じる。
そんな事を言ってる場合じゃないのも理解しているけど。
「もう、出ても、良いんでしょうか」
『いや・・・一応あの男が呼びに来るまで待っておいた方が良いだろう』
「そう、ですか。わかり、ました」
『ああ・・・む、これは。しまった・・・いやだが、あの時点ではもう遅かったか』
「どうか、しましたか?」
『・・・すまない、私の失態だ』
ガライドがとても申し訳なさそうに告げて来て、けれど私は良く解らずに首を傾げる。
『かなりの数が、食事用に処理をされている様だ。魔力が薄い。補給にならない』
「そう、です、か・・・」
血抜き処理。街の人達が魔獣を食べるには、そうしないと食べられない。
私もその事実は学んだから、依頼で魔獣を狩った時や、おすそ分けは血を抜いている。
ただし私がその場に居る場合は飲んでいる。だってもったいないし。
『だが全部ではない様だ。そちらが処理される前に食べに行こう。あの魔獣のエネルギー量は魔獣領の大型に比べれば随分と少ないが、無いよりはマシだ』
「出て、良いん、ですか?」
『本当は待つつもりだったが、このままだと調理しかねん。普段ならばそれでも良いが、今日のグロリアに必要なのは新鮮な魔獣だ。まだ処理していない分がある。早めにそちらを食べよう』
「わかり、ました」
『ああ、ただし血が必要だという事は伏せよう。念の為な。血抜きをしていない、食事の為に処理をしていない魔獣が食べたいと、そう告げるだけにしておきたい。第二騎士団が居るしな』
「・・・? わかり、ました」
第二騎士団が居ると、なぜ言っちゃ駄目なんだろう。
解らないけどガライドの指示に従って立ち上がり、少しふらつきながら天幕を出る。
するとメルさんが私に気が付き、心配そうな表情で近付いて来た。
「どうした。何か、あったか?」
「えと、魔獣を、食べようと・・・」
「ああ。いやすまない、もうちょっと待ってくれ。今すぐ調理をする」
「いえ、その、処理をしてない、魔獣を、食べたいん、です」
ガライドに理由を言ってはいけないと言われたので、ワタワタと誤魔化しながら答える。
すると彼は目を細め、私の様子を伺う様に見つめる。誤魔化せなかっただろうか。
「・・・処理をしていない魔獣は人体には毒、とまでは言わないが、余り良くないぞ」
「はい。知ってます。でも、私は、それが良いん、です」
「・・・解った。君の言葉を信じよう」
メルさんは少し心配そうな表情のまま、私の言葉を信じて頷いてくれた。
そしてまだ何も処理をしていない魔獣の元へ連れて行ってくれて、私はその前に座る。
山になった鳥の魔獣。大きいけれど、森の魔獣よりは小さい。
「いた、だき、ます」
一体を掴んでかぶりつき、垂れる血をもったいないと啜る。
鳥は羽がちょっと食べにくいけれど、しっかり噛めばそこまで問題無い。
それに羽にも魔力は籠っているらしく、なら私には食べる選択肢しかない。
「はぐっ・・・もぐっ・・・んぐっ・・・・」
黙々と食べる。目の前の魔獣の山を、全て平らげる為に。少しでもお腹を満たすために。
でも一体食べた程度じゃ大してお腹は膨れず、半分食べてもまだまだ足りない。
それはそうだろうとは思う。だって普段は大型をもっと食べているのだから。
もっと、もっと食べないと。せめてここに在る魔獣は全部。
本能がそう叫んでいるままに従い、黙々と魔獣の肉を食べて血を啜る。
ただ何故か分からないけれど、その間メルさんはずっと私を見つめていた。
『・・・ちっ、引くかと思ったら、慈しむ様な顔で見ておる。ここで引くような奴であれば絶対に許してやらんのに・・・考えれば考える程、こやつが傍にいる利点しか見えず腹が立つ。しかし・・・これは足りんな。どうするか・・・いや、答えは、一つなのだろうが・・・』
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